休みの日も生徒会は運営中。





青春学園中等部生徒会(立海編)





は今どうして自分は倒れているのだろうかと考えていた。
(確か今日は生徒会の仕事を終わらせちゃおうと思って学校に来て・・・)
とりあえず体を起こして鞄を探す。
(靴を履き替えようとして昇降口に行こうとしてて・・・)
目の前に見えるのはウェーブのかかった短い黒髪。
ブレザーを着た他校の生徒。
(ああそっか。ぶつかったんだっけ)
ようやく事の次第を思い出した。



「ごめん。大丈夫?」
「あ、全然平気」
手を差し伸べられて、は当然のごとく受け取って立ち上がった。
「その制服・・・・・・あなた、他校生?」
「あ・・・」
少し気まずい顔を浮かべる男子生徒に困ったように眉を顰めて。
「青学は部外者立ち入り禁止なんだけど」
きつめに言うと少年はさらに困った顔で俯いた。
それを見てが思わずクスリと笑うと、少年は「え?」と顔を上げて。
「ごめん、ごめんね」
クスクスと楽しそうに笑うに少年はぽかんとした感じで見入っていた。
目の前で笑う彼女がとても綺麗な顔立ちということに気がついて。
はやわらかく微笑む。
「ごめんね、厳しいこと言って。でも私生徒会のメンバーだからそれくらいは言っておかなくちゃと思って」
「じゃ・・・怒ってないんスか?」
「もちろん。入ったくらいじゃ叱らないわよ。先生ならともかくね」
優しい笑顔に少年は安心したように肩を落として、そして今度は自分から話しかける。
「俺、神奈川の立海大付属中の二年で切原赤也っす」
「私はここの三年で。よろしくね、切原君」
同じ生徒会で付き合いのある手塚が見たら眉間のしわを普段の三倍にしそうな営業用笑顔では笑う。
しかし初対面の切原は完璧な演技に騙されて。
「切原君はどうして青学に?」
「あー・・・実は柿ノ木中との練習試合があって行く途中だったんですけど、バスで寝過ごしちゃったみたいで」
「そうなの? 柿ノ木なら校門を出て向かい側にあるバス停から乗れば20分くらいで着くよ」
自然と校門の方へ移動しながら話を進める。
「切原君はテニス部?」
「そうっす。これでも神奈川では有名なんですよ」
「そうなの? スゴイね」
が笑うたびについつい見とれてしまって。
「今度試合見に来てくださいよ」
「そうね。じゃあ青学と対戦することになったら」
「いいんすか? 俺、絶対勝ちますよ?」
余裕な表情には目を細めて穏やかに微笑んだ。
ほんの一瞬素顔の笑みが覗いて、切原はその笑顔に釘付けになる。
あまりに美しくて、柔らかかったから。
顔が一気に熱を持つ。
「あっ、あのこれっ、俺のケータイ番号! 暇だったらいつでも電話して! 待ってるから!」
唐突に生徒手帳に書き付けて破ったかと思うと、に紙を差し出して。
そこには雑な字で書かれた電話番号とメールアドレス。
「いいの?」
「もちろんっ!」
「じゃあ、私の番号も」
鞄からシルバーメタリックの携帯を取り出して。
「・・・・・・・・・メールとかしてもいいんスか?」
「ええ。もちろんチェーンメールとかはお断りだけど」
いたずらっぽく微笑むと切原は嬉しそうに破顔して。
「じゃあホントありがとうございました!」
「気をつけて。試合、頑張ってね」
「はいッ!」
何度も手を振ってから校門へと駆けていく。
その途中で向こうから来た学ラン少年と激突して。
「またやってるし」
は小さく笑い声をあげた。



生徒会室の鍵を開けて入ると、ロッカーからコーヒーメーカーを取り出してセットする。
出来上がる間にさきほど一人電話帳に登録したばかりの携帯電話を取り出して。
短縮で探し出し通話ボタンを押した。
『はい』
「あ、私。久し振りー」
コール四つで出た相手に見えないとは分かっていても笑顔を浮かべて。
『久し振りだな。元気だったか?』
「もちろん。それだけが取り柄だしね」
『まさか、冗談を』
「でも柳も元気そうね。真田はどう? 相変わらず王様してる?」
クスクスと笑いを漏らして。
「ところでさ、いま柿ノ木にいるんだって?」
『あぁ、そうだが。よく知ってるな』
「ま、ね。じゃあ練習試合終ったらデートしない? 私と二人きりが嫌なら真田も一緒でいいけど」
『貴女と二人きりの方が俺は嬉しいのだけど?』
「ホント? 嬉しいなぁ。私ってば愛されてるー」
楽しそうに笑いながらコーヒーを自分専用のマグカップに注ぐ。
鞄から取り出したのはダースのミルクチョコレート。
「じゃあ終わったら電話して。私しばらく学校で仕事してるから」
『分かった。真田も誘ってみよう。俺一人より二人の方が貴女も嬉しいだろう?』
「柳一人でも十分嬉しいけど? 愛してるもの」
『俺もだよ』
軽い言葉の応酬を楽しんでから電話を切ろうとして、は思い出したように言葉を続けた。
「そういえば切原赤也がそっちに向かったわよ」
『・・・・・・切原が?』
「そ。ケータイ番号教えてもらっちゃった」
『貴女は・・・』
困ったように苦笑する声も、楽しげに受け流して。
「じゃ、試合頑張って」
『ありがとう。それじゃ、また後で』
ピッとボタンを押して電話を切った。
ウーンと大きく伸びをして。
「さーて、それじゃあ始めるか!」
積み重なった書類を隣の机に置いてボールペンを握る。
準備万端・仕事開始。



楽しみを後に控えて副会長は責務を果たす。
それはある晴れた休日のことだった。





→ おまけ
2002年8月23日