「・・・・・・跡部」
「よぉ。手塚」
「何をしに来た」
「アーン? 別にテメェに用があって来たわけじゃねぇよ」
用があるのは越前リョーマにだ。
でもって更に言えば用を引っさげているのは俺じゃなくてだ。
別に俺がわざわざ言うことじゃないから黙っていれば、案の定俺の隣にいたが一歩踏み出した。
社交界で見せる完全な営業スマイルを貼り付けて。
「はじめまして。私、景吾の友人でと言います。手塚君の噂は常々伺っていますわ」
「・・・・・・・・・」
は猫を被るときは何百枚でも被ってやるタイプだ。(それは俺もそうだけどな)
手塚の家もそれなりなんだろうが、俺たちとこういった意味でやりあうには踏んだ場数が少なすぎる。
だが、はそれくらいじゃおまえへの態度を緩めたりしねぇ。
まぁ一応祈ってはやるよ。
手塚の未来に幸あれ!
ビリビリクラッシュメン
ちなみに俺がに話した手塚はというと。
別にロボットみたいなヤツだとか、無愛想すぎてつまらねぇだとか、テニスばっかで女に興味ねぇんじゃねーかとか、そういったことじゃない。
隠れオタクだったら面白いのにな、とか言って、「だったら景吾と仲良くなれそうねー」なんて言われたわけじゃない。
とりあえず試合会場で会ったときのことや、そのときの感想、ちょっとした個人意見を言っただけ。
だからの手塚へ先入観がどんなものであったとしても俺に責任はない。
・・・・・・・・・ないはずだ。
「今日は前もって連絡もなく来てしまいごめんなさい。でも、どうしてもお会いしたくて」
誰にと言わないところがポイントなのか?
まぁのこの笑顔で言われりゃ大抵のヤツは誤解するだろうけどな。
つーかおまえ、さっさとその笑顔を活かして日吉を落とせってんだ。そうすりゃ俺がわざわざ青学くんだりまで付き合う必要もねぇ。
そうすりゃ『くのいちの吐息』の続きがプレー出来たってのによ!
「・・・・・・・・・さんは」
「ふふ、名前で呼んでもらえると嬉しいな。あ、でもそれは手塚君の彼女さんに失礼だよね。手塚君はカッコイイから、きっと彼女さんは内心で微かな不安も抱いてるかもだし」
「・・・・・・・・・」
「部活の邪魔してゴメンね? でも、どうしても会いたかったの。会ってお話がしたかったんだ」
「・・・・・・・・・」
「それにしても手塚君、景吾と同じで中三には見えないね。うん、大人っぽくて素敵! ご兄弟はいらっしゃらないんだっけ? あーそれは残念。手塚君が次男だったら私がもらってもよかったんだけどなぁ。でも長男だったらやっぱり家を継がなくちゃだしね。私は婿養子派だから手塚君とは結婚出来ないや。ふふ、ザンネン」
「・・・・・・・・・」
「あ、こんな会話してたらますます彼女さんに怒られちゃう! 困ったなぁ。たくさんお話したかったんだけど、でも仕方ないよね」
「・・・・・・・・・」
「じゃあ手塚君じゃなくて別の人とお話しようかな」
「・・・・・・・・・」
「本日のメインイベント。尚且つメインディッシュ!」
は勝手にコートの中に入り込んで。
「越前リョーマ君、いらっしゃい!」
し・ん・そ・こ!
楽しそうな笑顔で高らかに宣言しやがった。
不審がって近づいてこない越前に(そりゃ当然だ)、は自ら近づいていった。
身長差からいって、が越前を見下ろす形になる。
生意気そうに見上げてくる相手にはものすごく楽しそうに笑って。
・・・・・・・・・越前。おまえ、自分が蒔いた種だからな。俺はもう知らねぇ。
「・・・・・・・・・跡部」
「アーン? 何だよ、手塚」
「彼女は一体何なんだ」
「さっきアイツが言ってただろ。不本意だが俺のユウジンだ」
ユウジンという言葉がものすごく嘘っぽいけどな。
つーか俺とは幼馴染で親友で戦友だ。何でもありの関係だからな、言葉なんかじゃ現せねぇ。
「彼女は越前に用があったのか?」
「あぁ、そうらしいぜ」
「だが・・・・・・部活中に部外者は・・・」
「手塚、それはに言え。言えるもんならな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
さっきの遣り取りだけで、手塚はが苦手になったらしい。
ったく、そんなんじゃ社交界は渡っていけねぇな。たとえ心底憎いヤツにでも笑って対応するのが、あの世界の常識だ。
まぁ手塚みたいなタイプは足を踏み入れないでいるべきだと思うけどな。
悩み始めた手塚を放ってコートを見やれば、中央でが越前で遊んでやがる。
「はじめまして、越前リョーマ君」
「・・・・・・・・・アンタ誰」
「。よろしくね」
「そーゆーことを聞いてんじゃないんだけど」
「名前以上に自分を表す言葉を御所望? あえて言うなら跡部景吾の竹馬の友で、氷帝学園中等部の三年で、家の跡継ぎだけど。越前リョーマは何をお望み?」
「・・・・・・・・・俺に何か用?」
「うん、用」
は喋らなければ満場一致で美少女な顔で笑った。
だが、俺には分かった。周囲には分からない程度に冷えた空気。
・・・・・・・・・考察態勢に入りやがったな、アイツ。
しばしが黙ると、その間に他のヤツラの声が耳に入ってきやがった。
「ねーねー、不二。あの子って『氷帝のさん』だよね?」
「あ、やっぱり英二もそう思う?」
「もち! だって氷帝で黒髪の美少女っていったらさんに決まってるじゃん! うっわー初めて見た」
「僕も初めて見たよ。そうだね、何ていうか跡部に似てるね」
「待ちやがれ、不二!」
居ても立ってもられなくて会話に参入した。
アーン? 俺とが似てるって!? いいんだよ、そんなことは!
確かに育った環境が同じだから基本パーツは似てるだろうけどな! だがそれだけだ! 他は似てねぇ!
似ててたまるか、あんな他人を振り回してると!!
「え、でもそっくりじゃない」
ニッコリと笑う不二をこんなに殴ってやりたいと思ったのは初めてだな・・・・・・!
「身長は151センチって聞いてたけど、本当に小さいねー。うん、でも可愛いよ。可愛い可愛い」
「それって男に対して使う言葉じゃないし。つーか『聞いてた』って何?」
「えー? 誰かと初めて会うときは、その人について前もって調べておくことが当然でしょ? っていうか予備知識もなしに知り合うだなんて、そんなの先手を打たれてるってことだし」
「・・・・・・何言ってんの、アンタ」
「うーん・・・・・・・・・でも、アレだね。生意気具合では越前リョーマの方が上かもだけど」
「でもやっぱり日吉若が一番!」
さっき遠目で見たときと同じ結論を得たのか、は満足そうに頷いた。
逆に前に立っている越前はムッと眉を寄せたけどな。
つーか終わったなら早く帰るぞ。『くのいちの吐息』が俺様を待ってる。
今日こそはスミレを落として、あの忍装束を―――・・・・・・・・・!
「・・・・・・日吉って、俺と試合して負けた人?」
「そうそう。青学VS氷帝で決勝試合で負けちゃった人。髪がサラサラで、眼は肉食獣で、無愛想なんだけど感情が目に出るんだよねー。もうすっごい可愛い! やっぱ日吉若が一番!」
「ふーん・・・・・・趣味悪いね」
「恋愛なんてそんなもんだと思わない? 一番好きな人だけが良く見えて、周りの人は『やめろ』って言うんだけど、その声も届かないの! でもってついには結ばれるんだけど、やっぱり何時の日には破局して、『あのとき、ちゃんとあの言葉を受け止めておけばよかった・・・』って泣くのよ? うん、それが恋愛のセオリー!」
「別れていいわけ?」
「先のことは先のこと。実は今日はね、日吉若が負けた越前リョーマに興味があって来たんだよね。でも日吉若の方がカッコイイってことが分かったから、もういいや」
「・・・・・・何でそうなるわけ?」
「だって恋は盲目だもの!」
自分でハッキリ言い切る点で、コイツはいろいろと間違ってることが分かる。
だが指摘する気はねぇ。どうせ考えてやってるんだろうしな。
「それで、アンタは日吉ってヤツのお礼参りにでも来たわけ?」
「えーそんなことはしないって。だって日吉若のプライドを傷つけちゃうじゃない。越前リョーマを負かしちゃうのは簡単だけど、日吉若はそれを喜ばないしー」
「・・・・・・・・・簡単?」
「何が?」
「大層な自信じゃん。アンタ、俺に勝てると思ってるんだ?」
越前が言った台詞に、思わず俺の方が笑いそうになって困った。
馬鹿だな、アイツ。
が笑ったのが、雰囲気だけで分かる。
「私、まだ私を負かすことの出来る人に会ったことないから」
一生会わないと思うけどね、なんて言うの顔は俺の位置から見えない。
けれど越前が驚愕したように目を見開いたから、きっとアイツは最高に綺麗に笑ってやったんだろう。
だから俺は何もしないし言わない。
あー・・・・・・さっさと帰って『くのいちの吐息』をプレーしてぇ。
帰りのベンツの中、用意された紅茶を飲みながらが溜息をつく。
「やっぱり日吉若が一番! 越前リョーマもそれなりに楽しそうだったけど、でも生意気なだけじゃつまんないしね」
「つーかおまえ、手塚のフォローしなかっただろ。アイツ挙動不審すぎて普通だったぜ」
「えーだって手塚君は私の好みじゃなかったし。どちらかっていうとああいった純粋タイプは遊び相手にしたいんだよね。だってその方が楽しいじゃない?」
「好みと遊び相手のどこが違う」
「どっちも一緒? 要は食指が動くか動かないか」
「まぁそれは言えるな」
「景吾がスミレちゃんを落としたいけど、カゲリちゃんはどうでもいいやって思うのと一緒。カゲリちゃん、結構胸大きくて楽しいのになー」
「・・・・・・そんなに大きいのか?」
「大きいよ。忍装束の上からじゃ分からないけど、スタイルだけならピカイチじゃない? ふふ、あの柔らかな―――・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「お腹減ったぁ。夕食何だろ」
「待て! おまえ、俺様が待ってんのに途中で切んじゃねーよ! カゲリの何がどう柔らかいんだ!?」
「えーそんなの恥ずかしくって言えなーい」
「その台詞、世界中の乙女に謝りやがれ!」
「じゃあ景吾は私に謝ってもらおうかなー」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すみませんでした・・・」
「ふふ、オッケー。夕食後にクリアー付き合ってあげるから」
「・・・・・・約束だからな」
ちゃんと取り付けてから紅茶のお代わりを注いでやった。
あぁ、これでやっと『くのいちの吐息』をクリアー出来るぜ・・・・・・。
攻略本まで買ったのに何で落とせないんだか心底疑問だ。バグってんじゃねぇのか、あのゲーム。
「それは景吾君の腕前が悪いんだと思いマース!」
「労せずバカバカクリアーできるおまえに俺の苦労が分かってたまるか!」
「、わっかんなーい」
「馬鹿っぽいから辞めやがれ!」
「お腹減ったー」
「今日の夕飯はローストビーフ ヨークシャープティング添えだ!」
「本当? 大好き!」
昔から一緒に育ってると好みまで同じになるのか!?
そんなことが頭を過ぎったら、さっきの不二の言葉が甦ってきやがった。
『そっくりじゃない』
『そっくりじゃない』
『そっくりじゃない』
『そっくりじゃない』
『そっくりじゃない』
『そっくりじゃない』
・・・・・・・・・・何でだ!!
反論できなくなってきている己が恨めしい。俺とは本気で似てんのか・・・・・・?
「似てるに決まってるじゃない?」
「・・・・・・・・・何でだよ」
俺様はおまえみたいに騒々しくない。
そう思って問えば、当のは楽しそうに笑った。
「だって私と景吾の位置って、バイキン○ンとドキ○ちゃんでしょ? 似てない方がどうかしてるって!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「俺は、おむすび○んがいい!!」
「おむすび○んは榊先生なの! だから却下!」
結局、車内も夕食時もその後も夜通しで言い合いをしていたら、『くのいちの吐息』の攻略法を教えてもらうのをサッパリ忘れていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・泣きそうだ。
「はいはい、明日こそは付き合ってあげるから」
そう言って笑うと俺がもしも似ているとしたら、きっと教育環境が悪かったんだろう。
俺は跡部家と家、両家の教育論が間違っているんじゃないかと、生まれて初めて思った。