それは放課後にやってきた。

「け・え・ご・くーん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『けえご』って呼ぶな。馬鹿っぽい」
「やーだ、そんなこと言わないで! 可愛い幼馴染なんだから広い心で許してくれなくちゃ!」

喋らなければ美少女なが満面の笑顔で笑いやがる。
こうして俺の放課後の予定は決まった。
今日こそ『くのいちの吐息』をクリアーしようと思ってたのに・・・・・・っ!

「はいはい、ちゃんとお手伝いしてあげるから」





ビリビリクラッシュメン





HRが終わって20分後。
俺とは校門の前にいた。

青春学園中等部と書かれた校門の前に、だ。

「噂に違わず恥ずかしい学校名・・・・・・」
「おまえに呆れられるなんざ命名したヤツも本望だろうな」
「素面じゃ絶対に言えないって。『景吾さんはどちらの学校にお通いに?』」
「『青春学園です』」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「「恥ずかしっ!!」」

送迎の車(今日は俺の家のベンツだ)に待ってるように言ってから、恥ずかしい看板を下げた校門をくぐる。
青学はちょうどHRが終わったところなのか、生徒たちがバラバラと帰宅し始めていた。
その中を逆に校内へ入っていく俺たちは、当たり前のことだが視線を集めている。
まぁ他校の生徒だってのもあるだろうが、大半は俺様の魅力だな。
女からも男からも視線を向けられるのには慣れている。
それは俺と同じような生活をしているにとっても同じで、コイツは隣で軽く鼻歌なんか歌ってやがる。

「ねぇねぇ景吾」
「アーン?」
「青学の女子の制服って、なんかギャルゲーに出てきそうじゃない?」

コソッと話しかけられて、俺も周囲の女生徒を見回した。
さっきから顔だけしか見てなかったからな。改めて全身を見ることにする。

「想像してみて?」

が言う。

「白い、ラインの一本入ったセーラー」
「・・・・・・」
「その上に羽織るのはエメラルドグリーンのブレザー。丈は短く、電車内で吊り革を掴めば裾からセーラーが覗く」
「・・・・・・」
「スカートは黒のプリーツスカート。長さは膝上20センチ。階段で心が弾むのは男の性よね?」
「・・・・・・」
「ふくらはぎを覆う黒のハイソックス。そして同じ色のローファー」
「・・・・・・」
「極めつけはピンク色のリボン。セーラーの下に回して、胸元で蝶々に結ぶの。それとも結んでくれる?」
「・・・・・・」
「そんな美少女が目の前に現れて、『景吾、お昼一緒に食べよう?』なんて上目遣いで誘ってくれちゃった日には」

美少女と言われて瞬間的に隣を歩くの顔が浮かんだ。
まぁコイツは喋らなけりゃ美少女だからな。スタイルだって何の問題もねぇ。
だからとりあえず想像してみる。

――――――想像、してみて。

「良し!」
「でっしょー!? やっぱ青学万歳!」
「全くだ!」

なるほどな、これならどんなに名前が恥ずかしかろうが問題ねぇ!
むしろ『青春学園』なんて名前もギャルゲーに出てきそうでバッチリだ!
やっぱり一番最初にオトすのは同じクラスの美少女だろ。大体のゲームで最初に接触するしな。
そいつをクリアーしたら次は音楽教師だ。

「でも景吾に学ランはねー・・・・・・」
「アーン? 俺様に似合わねぇ服があると思うのか?」
「でもちょっと庶民すぎて不釣合いだと思うの。じゃあちょっと想像してみる?」

が言う。

「白いワイシャツ。もちろんネクタイはなし」
「・・・・・・」
「黒いズボンは真ん中にプレスがかかってて、皮のベルトを通して締める」
「・・・・・・」
「グレーじゃ髪の色と被っちゃうから、景吾にはクリームね。白に近い上品なクリーム色のセーターベストを着て」
「・・・・・・」
「学ランは軽く袖を通す程度。絶対にボタンは留めちゃダメ。開いた前からワイシャツとベストが見えて」
「・・・・・・」
「足元はスニーカーかな。それで、テニスバッグを無造作に背負う」
「・・・・・・」
「そんな景吾が目の前に現れて、『暗くなったから送ってく』なんて照れたように目線とか逸らして言ってくれちゃった日には」

の言うとおり、学ランを着ている自分を想像してみた。
まぁブレザーほどではないにしろ、俺に似合わない服なんてねぇ。
だからとりあえず想像してみる。

――――――想像、してみて。

「良し!」
「ってオマエがかよ!?」
「やーいいね、景吾最高! 今度是非とも学ランを用意しなくちゃ!」
「青学セーラーも用意しとくから必ず着ろよ?」
「もちろんオッケー! じゃあ二人して青学ルックで侵入してみる?」
「それも一興だな」

そんな話をしながら歩いていれば、どこかから聞きなれたボールを打つ音がしてきた。
アーン? うちの部活がないから青学もないのかと思ったら、やっぱり練習してやがる。
まぁが部活日のない日に来ようなんて言うわけないしな。
情報が社運を左右する世の中だ。そんな中で俺たちが疎くていいはずがない。
見えてきたコートは、氷帝に比べればそこらへんの公園レベルの施設だった。

「・・・・・・100円ショップと銀座四丁目みたいな?」
「何だ、その分かり辛い例えは」
「たとえ同じペンを売っていたとしても差はあるってこと。青学はテニス部にそんなに力入れてないんだっけ?」
「そんなこともないだろうけどな。そもそもうちと比べるのが間違ってるだろ」
「寄付の額が一桁違うしねー」
「経営面からして違ってるしな」

施設に差はあるが、プレーしている選手のレギュラー同士にはそんなに差もねぇ。
ただ補欠部員の厚さになれば、間違いなく氷帝の方が上だ。部員200名は伊達じゃない。
練習内容は―――・・・・・・・・・って、今日はそんなことをしに来たんじゃねぇ。
コートを見回せば、まだ俺たちの存在に気づいてない部員たちは練習を続けている。
そんな中に一際小さなプレイヤーを見つけて、俺はに示した。

「おい
「なーに、景吾」
「アレが越前リョーマだ」

指差す選手を見やって、は少しの間沈黙する。
けれど割合とすぐに結論を導き出した。



「なーんだ。日吉若の方が全然可愛いじゃない」





→ テニスコートに嵐来る
2004年5月20日