私は神様に嫌われている。
つーか嫌われた。中学二年になって捨てられた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
だからってこの仕打ちはないだろうよ・・・・・・・・・・・・。
学園天国(トラブルシューティング)
大学で教鞭をとっているパパ上が学会の出張で京都へと出かけていった。
そしてパパ上とラブラブなママ上は当然のごとくついていった。
まぁ夕飯代もちゃんと置いていってくれたしさ、八つ橋も土産に買ってきてくれるっていうんで快く見送った。
これで四日は自由だ! 夜中にゲームやっても朝寝坊しても全然平気! やった! パラダイス!!
思いっきり羽根を伸ばして遊んでやる!!
・・・・・・・・・・・・・・・しかし、現実はそう甘くなかった・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・」
38度ちょうど、と言おうとして声の出ないことに気がついた。
うわ、なんてこった、ついてないっ!
背筋は心なしか寒いし、喉はまったく声を発する気配はないし、なんだか体も重い気がするし。
こりゃあれだ。猿でも判る。
風邪を引いたらしい。
ものすごくものすごく残念! つーかせっかくの自由な四日間を過ごせるはずだったのに、まだ一日しか経ってないし!!
何か!? やっぱり昨日の夜に一人でDVDを5本も連続で見てたのが悪かったのか!?
風呂上りにゴロゴロして髪を乾かさなかったのが悪かったのか!?
それとも毛布もかけずにリビングで熟睡してたのが悪かったのか!? 一体どれだよ!
・・・・・・・・・・・つーか頭、痛い・・・・・・。
今日は学校休もうっと・・・・・・。
友人にメールを打って、とりあえず今度はベッドへとダイブした。
朝7時半:38.0度
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン
・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだかものすごく耳にうるさいチャイムの音がして目が覚めた。
誰だよ、こんな時間に。つーか今何時? ・・・・・・午後、四時。
四時・・・・・・・四時!? 何!? 私は八時間以上もグッスリ寝てたのか!?
うわぁ・・・・・・これで風邪じゃない状態なら喜んで寝るんだけどさ。
まだ頭痛いし。
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン
相変わらずチャイムは鳴り続けてるし。勧誘ならよそに行ってくれ。さんは居留守です。
シカトを決め込もうと思っていたら、何故か枕元の携帯が音楽を奏でだして。
ゴジラ来襲のテーマソング。
ゴジラ・ゴジラ・ゴジラ・ゴジラ・・・・・・・・・・?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
!!!!!!!!!!
―――――――――――逃げることは出来ない。そう悟った。
めちゃくちゃ重い足を引きずって、三分近くかけて玄関へと到達する。
その間もチャイムは延々と鳴り続けていて。
頼むから帰ってくれよ・・・・・・・・・っ!
かすかな希望を抱きながら、鍵を外してドアを開けた。
「こんにちは、。具合はどう?」
「(サイアクデス)」
ニッコリ笑った不二周助(先輩)がいた。
つーか桃。おまえ止めろよな、この魔王を・・・・・・・・・!!
あぁ、頭痛い・・・・・・・・・!
とりあえずリビングへとお通しして、お見舞いと称して果物の詰め合わせを頂いた。
というかこれもいらないから。だからお願いだよ、帰ってくれ。
そんな私の願いも叶わずに、魔王は従者である桃と菊丸先輩を捨て置いてソファーに一人でゆったりと腰を下ろす。
「風邪はどう? まぁ立てるくらいなら大丈夫そうだね」
「(いえ、とっても辛いです)」
「喉を痛めたの? じゃあ何言っても答えられないんだ?」
「(何でそんなに嬉しそうなんだ、おまえは)」
「お茶は出してもらえないのかな」
「(・・・・・・・・・)」
勝手に来ておいて茶を出せだと・・・・・・・・・?しかも、この、病人の私に?
そう思って視線で訴えてみたけど魔王は何食わぬ顔でニコニコと笑いやがった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
勝てるわけないし・・・・・・・・・・。
とりあえず日本茶を入れるのは面倒だから冷蔵庫にあったジュースを出しておいた。桃と菊丸先輩にも一応。
「それにしてもも風邪を引くんだね」
ニコニコと魔王が笑う。
「美少年だから風邪引かないと思ってたよ!」
―――――――――――――なんだその理屈は!!!???
あぁ、背筋が寒い・・・・・・・・・!
午後4時10分:38.3度
「先輩、無事っ!?」
「、風邪大丈夫なのっ!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・越前はいいんだけどさぁ・・・・・・・・・。
杏ちゃん、君は一体どこで私が風邪だという情報をキャッチしたのさ・・・・・・?
「え?桃城君からだけど」
桃、シメる。
「それより先輩、無事!? 不二先輩が来てるんでしょ!?」
越前、そんな大声で言うと奴に気づかれるよ。
「僕が来てると何か不味いのかな?越前」
ほら、即行。
「不味いに決まってるじゃないスか。先輩は風邪引いてるんだから不二先輩の相手なんか出来ないっスよ」
「僕はと遊びに来たんじゃないよ。お見舞いに来たんだ」
「だったらすぐに帰るのが礼儀ってもんでしょ? ホラ、桃先輩も英二先輩もさっさと帰る!」
「でもご両親がいないんじゃも心細いだろうし、何かあったときに心配だからね」
魔王の一言に越前の勢いが止まった。
ゆっくりとこっちを振り返る。おぉ、相変わらずちっこいなぁ。
「・・・・・・・・・先輩、おばさんたちいないの?」
「(うん、京都に旅行中)」
声が出せないけどとりあえず答えて頷いてみた。
そうしたら越前は怒った。何でだよ!?
「言ってくれればよかったのに! そうすれば学校なんかサボって手伝いに来たのに!」
いやそれは不味いだろう。つーかテニス部、今日は部活はないんですか?手塚先輩。
「決めた、俺は今日はここに泊まるからね! 不二先輩、先輩にちょっかい出したりしないで下さいよっ!」
「ハイハイ。判ってます」
越前が靴を脱いでバタバタと上がっていって、その場には。その場には。
私と杏ちゃんだけが残りましたとさ。
「・・・・・・本当に、呼んでくれればよかったのに」
攻撃、開始されました。
というか杏ちゃん?私は現在風邪引き中なので近寄らないほうがいいかと思いますが?
「の風邪なら私がもらってあげる」
いえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえそんな結構です!
「遠慮なんてしなくていいのに」
だから手を伸ばさないでくれ!風邪引いてんだってば!頭が痛くて寒気もしてるんだってば!!
助けて越前!魔王と一緒に杏ちゃんも押さえ込んでくれ!!
「・・・・・・・・・・」
ひんやりとした冷たい手が頬に触れて。・・・・・・・あ、気持ちいいかも。
って何を考えてる!!おまえはここで悪魔に魂を売り渡す気か!?
いくらなんでも風邪で意識がぼんやりしてるからってそれは不味いだろ!つーか一生後悔するから止めておけ!!
「」
杏ちゃんが、近づく。
あぁでもやっぱり手が冷たくて気持ちいい・・・・・・・・・。
「ちゃんっ!!風邪引いたってマジ!?」
チャイムも鳴らさずにオレンジ色が飛び込んできて、私と杏ちゃんを見て目を丸くした。
あぁ・・・・・・・目の前がぼんやりしてくよ・・・・・・・・・。
午後5時:38.5度
現在のリビング状況。
左から菊丸先輩・桃・魔王・越前・杏ちゃん・キヨ。
そして何故かキッチンでお茶を入れてくれている亜久津・・・・・・。
亜久津! 君はなんていい奴なんだ! しかも優紀ちゃんから手土産にプリンまで持たされてきてくれているなんて!
キヨが何故、私が風邪を引いているのを知っていたのかは、あえて問うまい。
昔っからキヨは何だかいろいろと知っている。だから聞かない。ちょたみたいな犯罪っぽい感じもしないし。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「キ、キキキキキキキキキキキヨッ!」
めちゃくちゃ名前を呼びたいのに声が出ない! でもやっぱりキヨは気づいて振り向いてくれた。さすがだ!
「どしたの、ちゃん」
「ちょたに何かした!? 跡部とか忍足さんに何か言った!?」
「まさか★」
キヨは、やけにキラキラと光る笑顔で答えてくれた。
ぽんぽんと私の肩を叩く手は優しいのに、何だかオーラがいつものオレンジとは違った色をしている気がする。
「大丈夫。何もしてないし、教えてないから。あの人たちが来ちゃうとちゃんがゆっくり休めないからねぇ」
「魔王と杏ちゃんが来てる時点で休めないよ・・・・・・」
「あはは、それはそーかも」
明るく笑うキヨに背中を押されて、キッチンで玉子酒を作ってくれているらしい亜久津のところへノロノロと近づく。
後ろから聞こえてくる会話がやけに怖い・・・・・・。
「ねぇねぇ千石さん、と何話してたの?」
「『あの人』たちって一体誰のこと?」
「橘さんや不二君には教えられないなぁ。これは俺とちゃんの秘密だし?」
気の毒そうにこっちを見てくる亜久津の視線が癒しにさえ感じられるよ・・・・・・。
午後6時30分:38度7分
――――――死にそうだ。
頭が痛い。寒気がする。越前が部屋から持ってきてくれた毛布がやけに温かい。
菊丸先輩の作ってくれたおかゆは本当に美味しかった・・・・・・。あぁ、回復したらちゃんと親友に教えてあげよう。
あんな料理上手の妻を娶れば、きっと君は幸せになれると。
・・・・・・・・・・・・・それにしても辛い。
目の前がグルグルしてるし、胃かどこか判らないけど気持ち悪いし、喉はやっぱりイガイガしてるし。
夕飯の後片付けをしてくれた後で、菊丸先輩と桃は一緒に帰っていった。
なのになんでまだ不二先輩は残ってるんだ・・・・・・?
杏ちゃんも、ほら、早く帰らないとお兄さんが心配するだろうから。
客が来てるうちは寝ることなんて出来ないし、ましてや不二先輩と杏ちゃんだし・・・・・・。
こみ上げてくる気持ち悪さに思わず胸を押さえる。
・・・・・・・・・・うわ。
ちょ、と
ほんきで
ヤバイ・・・・・・か、も・・・。
ブラックアウトしかけた寸前、ふわっとした浮遊感が。
あー・・・・・・マジで倒れた、なんて頭のどこかで冷静に判断してたら。
「無理しちゃダメだよ、ちゃん」
キヨの声が、した。
薄く開いた目の向こうで、ぼんやりとキヨの顔がいつもより近くに見えた。
笑ってるのか、怒ってるのか、よく判らない。でもなんか両方な気がする。
「というわけで当人のダウンにより本日のお見舞いは終了ー。あっくんと越前君は部屋の片付け、不二君は橘さんを送っていってあげてね」
ふわふわ揺れてる中で不二先輩と杏ちゃんが何か言ってるのが聞こえる。
「ダメダメ、橘さんは女の子なんだし帰らなくっちゃ。不二君も今日は弟君が帰ってきてるみたいだし、会うの久しぶりなんじゃないの?」
・・・・・・・・・・裕太、自宅に帰るなんて言ってたっけ・・・?
「えー何で知ってるかって? そんなの不二君に教える義理はないよ」
そういえば、キヨと裕太はメル友だったような・・・・・・?
私の部活のコンクールを見に来たときとか、話してた気がする・・・・・・。
っていうかダメ。本気で、頭痛い。
そんな思いでキヨの制服の胸元を握ると、抱き上げてくれている腕に力がこもったかもしれない。
「ほらほらさっさと撤退。ちゃんのことは俺たちに任せて」
喚く声も聞こえない。早くベッドで寝たい。楽になりたい・・・・・・。
部屋へとお姫様抱っこで連れて行ってくれるキヨにツッコミも入れることさえ出来ずに、私は半ば気を失うように眠りに落ちてしまった。
「まったくもう、ちゃんは昔っから無理するんだから」
キヨが私を部屋まで連れてきてくれたのも。
「人に優しいのはいいけど、体調悪いときは自分のことを優先すればいいのに」
ベッドに寝かせて、布団をかけてくれたのも。
「カッコイイけどちゃんは女の子なんだから」
丁寧なしぐさで額にかかった髪を除けてくれたのも。
「越前君とか、あっくんとか、裕太君とか、っていうか俺に頼ってくれてもいいんだよ?」
いつもとはちょっと違う、優しい顔で笑ってくれたのも。
「早く元気になってね、お姫様」
やけに恥ずかしい台詞を言われたのも、熱に浮かされていた私は全然覚えていないのだった。
翌日の朝、目を覚ましたらバッチリ熱は引いていて、私は無事に完全体に戻っていた。
頭を振っても痛くない。ためしに声を出してみたけど、ちゃんと出る。
「・・・・・・薬を飲んだ覚えはないんだけどなぁ」
自然治癒にしてはやけに治りが早い気もするけど、まぁいいか。
そう思ってベッドから降りようとしたら。
普通の広さだろう六畳フローリングな私の部屋に、キヨと越前と亜久津が転がってた。
毛布を取り合った後はなく三人とも一枚ずつ被ってて、クッションやら何やらを枕にスヤスヤと眠っている。
見れば私の机の上には、薬や水や氷枕やらヒエピタやらが置いてあって。
時刻は、朝の八時。
何でとか、遅刻とか、一瞬いろいろと頭に浮かんだけど。
ピロロロピロロピロピロピロロ
メールの着信音がして、慌てて手にとってボタンを押す。
キヨたちは・・・・・・よし、起きてない。
開いてみれば、裕太からのメールだった。
『具合、大丈夫か?昨日は兄貴が迷惑かけたみたいで本当にゴメン。ちゃんと言っておくから。元気になったらまたどこか遊びに行こうぜ。』
相変わらず裕太はいい奴だ・・・・・・っ!
もちろんイエスのメールを返信しながら、そういえば、と思い出す。
キヨは昨日『不二君も今日は弟君が帰ってきてるみたいだし』って言っていたような。
でもっておそらく何でそんなことを知ってるんだ、と尋ねてきた不二先輩に『そんなの不二君に教える義理はないよ』って言ってたような・・・?
い、今思えばキヨ、ものすごく恐ろしいことを魔王に対してしたんじゃないだろうか・・・・・・。
ま、まぁキヨだし! うん、きっとラッキーで逃げ切れるだろう!
もしものときは今回看病してくれたお礼として私が犠牲になってもいい。・・・・・・・・・一度だけなら。
そんな覚悟を決めながら、まだ床に転がっている三人を眺めていると、もそもそと一つの毛布が動いて。
オレンジ色の髪の毛がゆっくりと中から出てくる。
キヨはパチパチと目を瞬いて、ニッコリと笑って言った。
「おはよ、お姫様」
いろいろと大変だったりすることもあるけど、やっぱり友達っていいなぁと実感した風邪だった。