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10月31日





Happy Halloween!





始業30分前。最高評議会議会所に出勤してきたイザークは、監視カメラでも仕掛けていたのではないかと思われるほどのグッドタイミングで登場したアキノに捕獲された。
共にいたエザリアに笑顔で見送られ、引きずられて到着したのは案の定クルーゼの執務室で。
何だかとても嫌な予感を感じつつもとりあえず大人しくしていたところ、二人の前に立ったクルーゼが、仮面の上からも分かる笑顔を浮かべて穏やかに告げた。

アキノ、イザーク。今日は君たちにハロウィンを満喫してもらおうと思う」

優雅に、気品溢れて命じる彼の後ろには、オレンジ色の巨大なカボチャが鎮座していた。



10月31日。ハロウィン。作物の収穫を祝い、亡くなった者を追悼する祭り。
しかし昨今重要視されているのはそれらではなく、仮装した子供が「Trick or treat!」の合言葉を口に近所を回り、菓子をもらうという点だった。
本来農作業とは縁のないプラントにも、それがハロウィンの大きな意味合いとなって広まっている。
そしてそれらイベントを行っているのは、主に小さな子供たちだった。
天使や妖精、ときに悪魔やお化けに仮装した子供たちが街を歩き、大人たちは彼らを眺めて微笑みながら菓子を渡す。それがプラントでの一般的なハロウィンになっているというのに。
「・・・・・・・・・何故、俺がこんなことをしなくてはならないんだ・・・っ!」
巨大なオレンジ色のカボチャ―――目と口の刻まれているジャック・オ・ランタンをわなわなと震える手で抱えつつ、イザークは低い声で唸った。
つい先ほどまで着ていたネイビーブルーのスーツが、今は黒のパンツとベスト、白のシャツと赤いリボンタイに変わっている。
イザーク自身の雰囲気により、それはカフェの店員などではなく古城の主のようだった。
同じ格好をしているアキノは、黒髪がさらに服装を際立たせ、硬質な美貌を顕にさせている。
黒の長いマントを身に着ける彼に、イザークは怒鳴った。
アキノ貴様! こうなるのが分かっていて俺を捕獲しただろうっ!?」
「イベント好きの父上がこの機会を無視しないだろうことは分かっていた」
「だとしても何故俺を巻き込む!」
「自分の胸に手を当ててよく考えるんだな」
冷ややかな声音に、イザークはぐっと言葉に詰まった。
そう言われるだけの心当たりがイザークにはある。今回は迷惑をかけられている方だが、彼とてアキノに多大な迷惑をかけることもあるのだ。言うなれば持ちつ持たれつ、お互い様。
だが文句を口にしないほど彼はまだ大人になりきれてはいない。それも相手が体裁を取り繕う必要のない相手ならば、尚更。
「いいか、もう一度確認しておく」
イザークの分のマントを投げつけ、アキノはいつもと何ら変わらない冷静な声で話す。
それが逆に、こういった巻き込まれ型イベントに彼が慣れていることを感じさせた。
「俺たちはジャック・オ・ランタンを被り、議会所の表玄関と裏玄関にてそれぞれ待機。その際に『Happy Halloween』のプラカードを持ち、もしも『Trick or treat』と言われたら、準備しておいた菓子を渡す。だが、決して喋ってはいけない」
「・・・・・・喋りもせずカボチャを被り続け、それでも誰かに正体を気づいてもらえたら、そこでめでたく終了。その後は通常業務に戻ってよい」
「気づかれなければ、一日そのままだ」
アキノは吐き捨てるように言い、クッキーが山ほど詰め込まれた籠を手にする。
ジャック・オ・ランタンを仇のように睨み付けていたイザークも、深々と溜息を吐いて立ち上がった。
「今夜は飲み明かしてやる・・・・・・っ!」
「付き合おう」
こうして九時の始業と共に、二人のカボチャ怪人が最高評議会議会所に現れたのだった。





アキノの場合
2005年10月28日