28:「最後のチャンスをやろう」
・という少年は、とても愛らしい顔をしている。
それは一言で言うなら『美少女顔』と呼ばれるものだった。いくら本人が否定したとしても、美少女コンテストに出場すれば間違いなく優勝を掻っ攫い、町を歩けばティーンズ向け雑誌モデルにスカウトされるような、そんな可愛らしさを彼は持っていた。
しかし例えどんな愛らしい顔をしていようとも、中身は真っ当な男の子。
故ににとって自身の顔は、余計なもの以外の何物でもなかったのだ。
冷ややかな切っ先が、リンの喉元に添えられていた。
後僅かにでも力が入れば、それは容赦なく彼の喉を切り裂くだろう。
噴出した自分の血が、目の前の愛らしい顔を染める。それはそれで美味しいナ、などとリンはのん気に考えた。
「最後のチャンスをやろう」
エドワードよりは僅かに大きいけれど、リンよりは確かに小さな身長で、けれど見下すようにが告げる。
「先ほどの発言を取り消すのと、異国アメストリスの地で果てるの。どちらがいい?」
「ウーン、第一は皇帝になって老衰で家族に看取られて死ぬのがいいけど、でも可愛い子ちゃんに殺されるならそれもまたヨシ!」
「「若っ!」」
「一度ならず二度までも。――――――くたばれ」
「「若ーっ!」」
容赦なくナイフを走らせると、それを必死で阻止しようとする黒尽くめのランファン&フー。
しかし当のリンといえば、相変わらずの細い目でにこにこと怪しげに笑っているばかり。
エドワードとアルフォンスもそれぞれお茶やお菓子、文献などを手にのんびりとしている。
ほのぼのとしたある日の、午後三時。
そんな平穏に似つかわしくない戦闘のきっかけは、リンの『君、可愛いネ! 俺のお嫁さんにならないカ?』という常套句の一言だった。
2005年8月4日