27:「所詮、悪あがきさ」





血のように赤いソレは、楽園にて神が与えた罪の果実。

細長く爪を変形させて、ラストはリンゴを綺麗に八等分した。
そのうちの一つを、口紅を塗らずとも色づいた唇で銜える。
「南部と北部。どっちもどっちね」
「じゃあ俺は南部ー。、一緒に行こ」
エンヴィーはリンゴの表面だけを服で拭うと、そのまま齧りついた。
赤い皮から瑞々しい果肉が覗く。
「馬鹿言ってんじゃないわよ、エンヴィー」
「ねぇラスト、リンゴもっと食べていい?」
「これだけあるんだから、どんどんお食べなさい」
「いただきま〜す」
許可を受けてグラトニーは両手に持った果実を丸ごと口の中に入れて咀嚼する。
入れ墨の輝く舌でベロリと唇を舐めた。
はどこでもいいよ?」
手の平よりも大きなリンゴを、は片手で握りつぶした。
小さくなった欠片を指で抓んで口へと運ぶ。
「でも東部でのお仕事はないんだね。エドや焔の錬金術師に会えると思ったのに」
ぷくっと頬を膨らませるはとてつもなく愛らしい。
そんな表情に恍惚としながらも、ラストとエンヴィーは言うべきことはちゃんと言う。
「ダメよ、。あんな輩に会いにいっちゃぁ」
「そーそー。せっかくの可愛いが毒されちゃうじゃん! そんなことになったら俺、あいつら殺しちゃうよ」
「・・・・・・それは、やぁ」
困ったようにが眉を顰める。
その場面を想像してしまったのか、大きな瞳にほんの少しだけ涙を浮かべて。
バリバリと食べていたリンゴを一つ、グラトニーはに差し出した。
それを軽い力でグチャグチャに壊して、小さな口に含む。
「エドも焔の錬金術師も、死んじゃやだぁ・・・・・・」
「でもあいつらはいずれ人柱になるのよ?」
「それならいいけど、それ以外で死んじゃやだ」
「優しいわねぇ、は」
よしよしと、まるで赤子にするかのようにラストはを優しく撫でた。
エンヴィーは芯だけ残ったリンゴをポイッと適当に放る。
「じゃあ、一緒に南部に行こ? 美味しいもの食べて、でもって遊んで、仕事してストレス発散してこよー?」
ニコッと穏やかな笑みを浮かべる兄に、は戸惑ったようにラストを見上げた。
麗しい唇が呆れたように溜息を零すのを見て、エンヴィーに向き直ってコクリと頷く。
「うん、一緒に行こ。エンヴィーお兄ちゃん」
「よしっ!」
本当に嬉しそうに笑う姿に、まで嬉しそうに微笑んだ。
その様子は何処から見ても仲の良い兄妹にしか見えない。ましてや、人以外のモノにはとても。
けれど彼らは人間ではなくて。人間を害する立場にいるモノで。
「ちゃんと仕事はしてきなさいよ?」
「オッケー判ってるって。唆して殺して、スカーがいれば潰すんだっけ?」
「そうよ。追い詰められた小物は何するか判らないから気をつけなさい、
「うん、ラスト姉様」
グラトニーからリンゴを一つ奪って、エンヴィーは唇を歪めて笑った。
とてもとても楽しそうに、甘く、優しく。

「所詮、悪あがきさ」

表情とは正反対に冷たく響いた言葉に、ラストやグラトニーだけでなくも笑った。
体に刻まれる入れ墨に誓って。

喜んで、世界を壊そう。





2003年12月28日