24:「俺は俺だけの味方だ」





「中尉と目的のどっちかを取れと言われたら、君はどうする?」



背の高い相手に見下ろされて、は不愉快そうに顔を歪めた。
ロイは普段と何ら変わらない食えない笑みを浮かべて、そんな少年を見ている。
「1:リザさん、2:目的、3:両方取る、4:両方取らない」
「5:現状維持」
「それは有り得ないね」
吐き捨てるように笑って、は肩を竦める。
「大体何だっていきなりそんな馬鹿なこと言い出したわけ? 俺にその手のことは愚問だって判ってないんだ?」
「もちろん判っているとも。だが疑ってもいる」
「相変わらず嫌な奴だな、アンタ」
「用心深いと言って欲しいね」
涼しい顔をして笑うロイに、は再度不愉快そうに顔を歪めた後で表情を消す。
可愛らしい顔はいっそ凍るような美貌に変わった。
そんなの変化を楽しそうに観察しながら、ロイは続ける。
「心から愛する相手と、一生を懸ける目的。どちらも持っている君は恵まれているな、
「最悪の嫌味をアリガトウ、マスタング大佐。29歳にもなって妻のいないアンタに言われると有り難味が増すね」
「それで、先程の正解は?」
視線で促されて、は溜息をつきながら黒髪をかきあげる。
零れ落ちそうなくらい大きな瞳はまっすぐに前を向いていて。

「―――2」

白いコートの内側で、銀時計が音を立てた。



リザ・ホークアイ。
大好きな人。大切な人。愛してる人。
誰よりも幸せになってもらいたい。誰よりも笑顔でいてほしい。
そして彼女の幸せを創り出すのが自分ではないとしても。
彼女が幸せなら、それでいい。
彼女が幸せになるなら、何でもする。
たとえそれで彼女が泣いたとしても。
結果的に、幸せになれるのなら。

じゃあ、彼女のために目的を捨てる?

夢。願い。祈り。
人生におけるすべて。
いつからか強く祈っていた。何としても叶えると願っていた。
そのために両足を犠牲にし、神に背いて創り出した。
叶えるためだけに生きてきた。
現実になるなら、何でもする。
たとえそれが人間として間違っていたとしても。
結果的に、手に入れることが出来るのなら。

じゃあ、それを彼女が止めたとしたら?

永遠に回り続ける無限のループ。
出口はない。
秤に載るのは愛と目的なんかじゃない。
ただ、誰かのためになんて。
誰かのために、なんて。



彼女のために目的を諦めたりなんかしない。
もしそうしたら、いつかきっと責めてしまうから。
愛する人のせいに、してしまうから。



「俺は、俺だけの味方だ」
噛み締めるような声は、まだ声変わりもしていない少年のもの。
「リザさんは優しいからきっと止めろって言う。だけど諦めたら俺は俺じゃなくなる」
前を向く眼差しは、見ていて痛くなるほど真摯なもの。
「俺は、俺のためだけに生きて死ぬ。リザさんに幸せになってほしいのも、リザさんに止められても辞めないのも、全部俺自身のためだ」
機械鎧として填められた足は、どんなことがあっても立ちあがる。
「リザさんのことは好きだけど、俺の人生をリザさんに預けるわけにはいかない」
生身の手を握り締めて。
はハッキリと言い放つ。
「俺は、今のままじゃリザさんに愛してもらう資格なんかない。目的を達してから初めて、そう願えるんだ」
「・・・・・・ならば中尉が君を愛しているから、目的を叶える必要などないと言ったら?」
「それでも俺は辞めない」
強さよりも痛みを帯びた声が響く。



「俺が、俺を許さない」



少女めいた美貌が、こういうときにだけ少年の顔になる。
何がをここまで潔癖とさせるのか、ロイには検討がつかなかった。
彼の目的が何なのか、知らない限り。
「――――――マスタング大佐」
振り向いて、が笑う。
いつもと同じように明るく、美少女めいた笑みで。

「もしも俺がココロザシ半ばで死んだときは、リザさんのことよろしく」

そう簡単には死なないけどね、と続いた言葉に、何故かロイは唇を噛んだ。
そんなことがなければいいと願いながら、心の内で溜息を吐き出して。
先を歩く子供の頭に手を置く。
見上げてくる相手に負けないように、いつもと同じように笑った。

「安心したまえ。私は君の味方だ」

お互いにそんなのは真実と嘘が半々だと判っていて、ロイとは笑い合った。
笑うしか、なかった。





2004年6月6日