22:「本音で話そうぜ」
「・・・・・・ヒューズ」
整っている顔を沈痛な面持ちに沈めて、ロイが口を開く。
困惑しているような、ひどく悔やんでいるような横顔は、彼の容姿とあいまってロイをより一層魅力的に見せている。
いつになく真剣な雰囲気を受け止めて、ヒューズも自然と口を噤んだ。
唇を噛み締めて悩み抜いた末に、ロイは搾り出すように言葉を紡ぐ。
「鋼のを、私に下さい」
「誰がやるか。一昨日来やがれこのショタコン」
ちゃぶ台を引っくり返さなかっただけ良しとするべきか。
とりあえず、父親的存在に一蹴されて、ロイ・マスタング最初の一敗。
由緒正しい和室で向かい合う、父親と娘の恋人。
同じ年のはずのロイとヒューズがそう見えたと、後にヒューズの妻であるグレイシアは笑いながらエドワードに話した。
ダンッとテーブルを叩いてロイが悔しげに顔をゆがめる。
「大体何故おまえが鋼のの保護者的存在なんだ! 普通は彼を導いて連れてきた私がそのポジションに納まるべきだろう!?」
「おいおい軍人にしておいて保護者になりたいだ? 子供のためを思うなら止めておけよ」
「な・・・っ! そ、それは鋼のがそう望んだのだから仕方ないだろう!? 私だって出来ることなら彼を危険な目になんて遭わせずに、ずっとこの腕の中に閉じ込めておきたかった! ・・・・・・いや、むしろ今からでも遅くない。そうだ、ロイ。今からでも遅くはないぞ・・・・・・!」
「落ち着け、アホ」
ベシッと机の下でヒューズの蹴りが決まった。
怪しい自分の世界に逃げ込みつつあったロイが、それによって現実へと引き戻される。
一瞬ムッと眉を顰めたが、すぐにテーブルへとのの字を書き始めて。
「・・・・・・どうせ私は鋼のを幸せにすることなんて出来ないんだ・・・・・・」
「じゃあなおさらおまえにエドは渡せないなぁ」
「今の数秒は記憶から消して下さい、お義父さん」
「誰がお義父さんだ。俺はてめぇみたいなロクデナシにエドをやる気はないぞ」
「保護者は子供の幸せを邪魔するな」
「エドが果たしておまえと恋人になって幸せになれるのか?」
ものすごく、ものすごく根本的な質問に娘の恋人・・・・・・ではなく、エドワードの恋人になりたいと主張するロイは、ぐっと言葉に詰まった。
ヒューズはそれを興味なさそうに見て、さらに続ける。
「だってロイ、おまえは軍人だろ? そりゃエドだって同じだが、やっぱりおまえは上にあがっていくってことで立場が違う。エドの存在がマイナスの要素になるってことも少なからずありえる」
「・・・・・・それは」
「否定できないだろ?」
唇を噛み締めてロイが俯く。
「ただエドのことが好きで、手元に置いておきたいだけなら止めとけ。それはおまえたち二人にとって良いこととは思えない」
「・・・・・・・・・」
「つーかエドはおまえの勝手で閉じ込められているような大人しいガキじゃない」
「・・・それもそうだな」
「俺には容易に想像できるぞ。『ふざけんな、このバカ大佐!』とか言っておまえを殴るエドと、『待ってくれ、鋼の!』と泣いて縋り付くおまえが」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ちょっとは否定しろよ、おい」
やけに真剣な表情で頷いたロイに、思わずヒューズの方が焦りを浮かべる。
何だかんだ言って、ロイ自身も自分と愛しいエドワードの関係をちゃんと理解しているらしい。
それが彼にとって望んでいるものより100歩以上手前だったとしても、とりあえず今は甘んじて。
ヒューズは溜息をついて、ソファーに寄りかからせていた背を伸ばした。
「・・・・・・なぁロイ。そろそろ本音で話そうぜ」
顔を上げる親友を、眼鏡の奥から逃がさないようにきつく見据える。
嘘をつくことなど許さないと睨んで、ヒューズは口を開いた。
「おまえ、エドがセントラルに来るたびに家に泊まってくのがただ羨ましいだけだろ」
「羨ましいだけなものかっ! 私の親友だとか言うくせに勝手に私の鋼のを家に呼ぶどころか泊まらせて、挙句の果てには一緒に夕飯をとりソファーに座ってテレビを眺め、そして眠たくないと駄々をこねる鋼のをベッドに寝かしつけ子守唄まで歌ってやりポンポンと布団を叩きながら寝顔を鑑賞し、翌日には朝一でおはようと挨拶して乱れた三つ編みを結ってやり、牛乳を飲めと勧めても蹴られることなんてなく、軍の資料を閲覧する鋼のと共に出勤していくおまえを羨むだけで済むものかっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ここはやはり「俺が悪かった」と謝るべきなのか、それとも「何でおまえがそんなことを知ってるんだ」と問いかけるべきなのか。
対応に困ってヒューズは妻であるグレイシアを振り返った。
彼女は娘のエリシアを膝の上で寝かしつけながら、喚き続ける客に向けて穏やかな笑みを浮かべて口を開く。
「告白も出来ないような情けない男の人に、エドワード君はお嫁に出せないわ」
柔らかな口調で言われた辛辣な言葉に、男性陣二名は白石と化した。
ロイ・マスタング、しばらくはヒューズ家に出入りさえも出来ないかもしれない。
2004年2月3日