18:「これ、貸しにしとくからな」
『恋愛を忘れたいのなら仕事に没頭してみてはどうかね?』
今となってはあの隻眼の笑顔がムカついて仕方ない。
は右手のリボルバーの弾装を勢い良く入れ替えながら叫んだ。
「〜〜〜〜〜あのクソジジィ! これ、貸しにしとくからな、覚えとけっ!」
背にしているブロックの端から弾丸が飛んでくる。
ふざけんなと叫んで、は自身の銃も乱射した。
彼女よりも高い身長。
容易く庇える肩の広さ。
加減して引き寄せる強い手。
抱き上げることの出来る力。
苛立ちをぶつけて引き金を引く。
角の向こうで人影が倒れたのを見て、一気にそちらへ駆け寄る。
まだ、いる。人がいる。
配給された手榴弾のピンを歯で引き抜き、放り投げた。
爆音が鳴り響く。まだ息のあった足元の男を撃ち抜いて、は走り出した。
笑う顔、優しかった。
その声、とても穏やかだった。
頼ることの出来る信頼。
託すことの出来る安心。
全部全部全部ほしかったもの。
ほしくて、手に入らなかったもの。
羨ましい。でもそんなこと、絶対に言わない。
負けなんて、認めない。
「ふざけんなテメェラ! 軍が来ることなんざ覚悟の内だろうが! さっさと出てきて俺のストレス発散に付き合いやがれ!」
そのために黒のコートじゃなくて青の制服を着てきたんだぞ、とは続けて爆煙に向かって叫ぶ。
左右の手には自動式の銃。腰に提げているバッグの中には手榴弾が複数。
脇には刀ほど長くもない剣。ブーツには仕込みナイフ。
肩に背負うのはマシンガンニ丁。斜めにかけているのは数珠繋ぎの弾薬。
錬金術師ではない、一般の戦闘軍人としてはこの任務に臨んでいた。
――――――ただ一人で。
撃ち抜いて斬り倒す。それを何度も繰り返して崩壊する街を進む。
「大人しく出てくれば楽に逝かせてやるよ!」
振りきるようにしては駆ける。
赤い血が飛ぶ。顔に付着したのを乱暴に拭った。
殺戮で晴らす鬱憤。
止まらなく溢れる憎悪。
無いもの強請りの嫉妬。
情けない自分への侮蔑。
どうしようもない闇。
涙の代わりに血を流す。
自分のものと、他人のものを。
反乱軍のリーダーだった男の首を切り落とし、それを重ねた麻袋に仕舞いこむ。
後は残党を狩るだけ。それも数人くらいのものだろう。
建物の上にいた男を銃で打ち落とし、陰に隠れていた男は剣で一突きにする。
気晴らしに引き受けた仕事だったのに、やけに体力を使ってしまった。
やはり錬金術を使えば良かったか、とは今更ながらに思い返して歩き出した。
その歩みはかすかな音さえも立てない。
銃を装填する金属音だけがやけに響く。
「あーあ、これで最後か」
周囲でただ一つだけ残っている人間の気配。
特に防御することもなく、銃を持っている片手も下ろしたまま、は崩れかけた建物の扉を蹴り開けた。
砂埃が上がる中で薄暗い室内を見まわせば、隅の方でビクリと震える体が目に入る。
わざとらしく大きな音を立てて近づき、右手の銃を持ち上げた。
小さな窓から、焼かれている建物の炎が室内に入りこんで部屋の中を浮かび上げる。
は目を見張った。
金色の髪。
意思のある瞳。
年、背格好。
罪が幻を見せたのか、幻が罰を与えたのか。
「リザさ・・・・・・っ」
が呼び終えるよりも先に、銃声が弾け飛んだ。
焼けるような熱は、決して焔ではないのだと思いたかった。
2004年1月6日