15:「ギブ・アンド・テイクでしょ」
バチッという音を立てて装丁を取り付ける。
の機械鎧はエドワードのように取り外しの出来る物ではなく、言葉通り『体の一部』になってしまっているものだ。
「・・・・・・どこの誰が作ったのか知らないけど、理解の範囲を超えてるわ」
機械鎧を直に体に取り付けるなんて常識では考えられない。
技師としてのプライドなのか、少し怒り気味のウィンリィには困ったように苦笑した。
先日付けではリゼンブールを訪れていた。
ウィンリィと初めて会い、彼女がの専属技師になったときに決められた定期検診のためである。
本来ならばエドワードとアルフォンスも一緒に来るべきなのだが、セントラルで資料が手に入ったため、一週間遅れで到着の予定となっている。
それがに好意を抱いているウィンリィへの配慮でもあることは、もちろん言うまでも無かった。
オイルを注されて動きの良くなった右足を確認して、は笑う。
「さすがウィンリィ」
「そう思うならもっと丁寧に扱ってよね。もエドもアルも、いーっつもどこかしら壊れてるんだから」
「壊すつもりはないんだけどさ」
「あったら怒るわよ!」
「あはは、ごめんごめん」
誠意の無い謝罪にウィンリィは眉を顰めたが、がとても楽しそうに笑うので、そのまま肩を下ろして検診の続きを進める。
「はい、次は左足」
「よろしく、センセー」
「ウィンリィ先生とお呼びなさい」
「ウィンリィせんせー」
そんな言葉の遣り取りに二人して笑って。
ドライバーを取り出して分解を始める。
ウィンリィにしてみれば、検診はすごく嬉しいのだけれど、同時にどうしていいのか判らないものでもあった。
がリゼンブールに来てくれるのは嬉しい。
しかもその間は自分の家に泊まってくれて、顔を合わせることも話すことも何度でも出来る。
いつもは遠くに離れていて出来ないからこそ、好きな人と一緒にいられる定期検診はウィンリィの大きな楽しみの一つだった。
――――――だけど、それと同じくらいに困ってしまう。
と自分はいつも一緒にいられないからこそ、何を話せば良いのか判らない。
特にウィンリィは機械鎧にばかり詳しくて、自分が一般的な女の子と少し―――少し?―――ずれていることを知っている。
だからこそを前にしてどんな風に行動すればいいのか判らない。
好きだという気持ちだけがあって、だけど体が追いつかなくて。
・・・・・・結局は『機械鎧技師』としてしか接することが出来ないのだ。
何だか情けないなぁ、とは思うのだけれど。
本気で恋をするのは初めてだから、どうすればいいか判らない。
両方の足が検査を終えると、自分がに触れる理由は無くなってしまう。
それを心の中で残念と思いつつも、ウィンリィは最後のネジを締めてドライバーを下ろした。
自分でも満足の調整、と軽くの機械鎧を叩いて。
「はい、完成」
「ありがと。代金はいつも通り?」
「そうね、今回は特に部品の交換も無かったし、いつも通りで」
「じゃあハイ」
鞄から無造作に取り出された封筒を手渡され、ウィンリィは中を確認する。
そこには普通の大人が必死で働いても、一月では到底手に入らない額の札束が入っていた。
これを簡単に手に入れることが出来るのが、国家錬金術師。
やエドワードの能力。
「確かにいただきました」
「領収書はいいや。ウィンリィだし」
「それって信用してくれてるの? 後で『まだ払ってもらってない』とか嘘言ったりするかもしれないわよ?」
「うーん・・・・・・そのときはまた払うとか」
俺ってば丁度良い詐欺のカモ、と言っては笑った。
その優しい笑顔にウィンリィも同じように笑って、そしてゆっくりとその笑みを収める。
震えそうになる手で、下ろしていたドライバーをもう一度握って。
「・・・・・・じゃあね、」
「ん?」
こちらを見る相手の顔は見れなくて、俯いたまま。
「・・・・・・お金なんて払わなくていいから、私とデート、して・・・?」
最後の方はやっぱり震えてしまって。
これだけの台詞なのに、何で涙が零れそうになってしまうんだろう。
に好きな人がいることを知っているから?
それが自分ではないことを判っているから?
優しいから、断らないだろうと確信してしまっているから?
この想いを叶えるためには、とてつもない努力をしなくてはいけないから?
それとも。
――――――あなたのことが、こんなにも好きだから?
「・・・・・・ウィンリィ」
「だって機械鎧を直してあげたんだもの! 当然でじゃない!?」
が何か言うよりも早く、パッと顔を上げてウィンリィは笑った。
これ以上の沈黙と、のこれから発する言葉が怖くて、耐えられなくて。
ドライバーを握り締めたまま背を向けて、せめて声だけでも明るく笑って。
「どこでもいいの。そこらへんの原っぱでも、ちょっと先の小川でも。がいればそれでいいから」
「・・・・・・・・・」
「ギブ・アンド・テイクでしょ」
「・・・・・・判った」
苦笑してが答えると、ウィンリィは小さく肩を撫で下ろした。
こういう我侭がに迷惑をかけていると知っている。
だけど、それだけじゃ恋は出来なくて。
心と体が本当に裏腹。
振り向いて、ウィンリィは笑った。
・・・・・・泣きそうに、なってしまったけれど。
「好きよ、」
その腕に抱きしめられたらどんな気持ちになれるのだろう。
恋の良い所は、些細な出来事で幸せを感じられることだわ。
の綺麗な笑顔を心に仕舞いながら、ウィンリィはそう思った。
2003年12月26日