08:「そーゆーコトは早く言え」





初めて銃を手にしたのは、意外にも国家錬金術師になってからだった。
スラムで過ごしていた頃はそんなもの手に入らない。身を守るのは拳と鉄材、あればナイフ。
飛び道具は一部の人間しか持っていなかった。
ましてや、子供の自分なんて。
身体一つで勝負するしかない自分になんて、必要なかった。
手の中の金属を弄んで、は笑う。
「・・・・・・売ったらいくらになんのかな」
そう考えてしまう自分はやはりスラムでの生活が抜け切っていないらしい。
ホルスターに銃身を押し込んで、は苦笑気味に唇を吊り上げた。

足元には、無数に穴の開けた塊が転がっている。
―――数秒前までは人間だったモノが。



いつの間にか支給されるのが当然のようになった黒のコートを脱いだ。
こびり付いて離れない赤黒い染みと死臭に、は肩を落として。
「また無駄にしちゃったよ・・・・・・まぁいいか、タダだし」
ロッカーからいつもの白いコートを取り出して羽織ると、何だか気持ちが少し落ち着いた。
殺しの仕事には慣れているけれど、四六時中していたいわけじゃない。
ましてや、目的のためと割り切っている今なら尚更。
適当に周囲を片付けて部屋から出ると、廊下に見慣れた後ろ姿を見つけた。
艶やかなショートカットの黒髪。凛とした雰囲気は想い人に近いものがある。
それが理由で彼女を好意的に思っているわけではないのだけれど。
「マリ―――・・・・・・ロス少尉!」
いつものように名前を呼びそうになって、は慌てて苗字に階級を添えた。
ここはセントラルなのだから、東方司令部のように勝手な真似は出来ない。
ただでさえ自分は『万物の錬金術師』として顔が知られているのだから。
「お疲れ様です、万物の錬金術師殿。もうお仕事はお済みになられたのですか?」
「まぁ一応。成功率の速さと高さが売り出し?」
「それはそれは」
楽しそうに笑うロスに、も同じように笑った。
挨拶さえ済んでしまえば、後はもう友人同士の会話になる。
セントラル総司令部の長い廊下を歩きながら、他愛もない言葉を交わして。
「そういえば君、こんなところでのんびりしてていいの?」
キラッと瞳を光らせて言うロスに、は苦笑しながら小首を傾げる。
ロスの持っているこういった意地悪さは可愛らしい、なんて思いながら。
「のんびりって、何が?」
「あら、本当に聞いてないのねぇ」
「だから何を?」
再度聞き返すと、目元にあるホクロが悪戯っぽく笑う。

「今、セントラルにはマスタング大佐がお見えになっているのよ? もちろん、ホークアイ中尉も」

言われた言葉に、の睫の長い瞳が瞬いて。
次の瞬間、白いコートの裾が舞った。



「〜〜〜〜〜〜そーゆーコトは早く言えっ!」



廊下をダッシュしながら叫んで。
後ろから聞こえてくる笑い声に前言撤回だ、とは心底思った。





2004年5月8日