02:「殺してやる」





「大佐。俺、大佐のこと好き。結婚して?」

そう言って見上げてくる大きな金色の瞳。
ハレルヤの歌声が近づいてくるのをロイは感じた。



輝かしい光がスポットライトのように自分たちを照らしている。
世界は二人のためにあるの〜♪
などという素晴らしい歌がロイの頭の中で回り始めていた。
パタパタと小さな白い羽根を羽ばたかせながら、天使が空から舞い降りてくる。
いや、むしろ天使は目の前にいる鋼のだ!
ロイの思考は常の3万倍近いスピードで回転していた。

太陽のように明るく眩しい金色の髪。
旅を続けていても日に焼けることのない白い肌。
長い睫が縁どる零れるように大きな瞳。
瑞々しい果実のように赤く熟れた唇。
細く綺麗なラインを描いて伸びている首。
服に隠されて微かに浮かんで見える鎖骨。
触れたことはないけれど魅了して止まないだろう身体。
そして何より、その愛しさに満ちた性格。

これぞ、天使!
この世に天使はエドワード・エルリック一人だけだ!!

そしてそんな彼が、今一体何と言った・・・・・・?
ロイは周り回っている賛美歌をどうにか脇に寄せて―――けれど停止スイッチは押さないで―――先程のやりとりを思い出す。
確か天使は、ロイにとって世界に一人だけの愛しい天使はこう言わなかっただろうか。

『大佐、俺、大佐のこと好き。結婚して?』

再び歌が流れ始め、光が差し、大地が輝き始める。
イシュヴァールの内乱のときに切り捨てた神に、ロイは今心の奥底から絶大なる感謝を捧げていた。
ビバ★神様、と。



ロイの心と身体を喜びが支配する。
何せ彼にとっては出会ってからずっと愛し続けてきたエドワードからの求愛である。
これを喜ばずにいられるだろうか。―――否。
むしろ大総統になるという野望を叶えるよりも嬉しいかもしれない。
感動のあまり涙さえ浮かんできたロイは、噛み締めるように己の手を胸元とで握り締める。
――――――しかし。



「何で返事してくれないんだよっ大佐のバカ! もういいっ! 少尉と中尉に結婚してもらうから!!」



ロイがあまりに長い間感動に浸っていたため、天使は痺れを切らしてしまった。
一気に甘い幸福から現実へと引き戻されてしまったロイは、弾かれたように焦点を合わす。
しかしすでに目の前にいたはずの愛し子の姿は無くなっている。
慌てて視線を上げれば走り去っていく後ろ姿、そして―――・・・・・・。
「少尉、中尉! 俺と結婚してっ!」
赤いコートが白いウェディングドレスに変わり、三つ編みの金糸にレースのベールか被される。
エドワードを抱き上げたロイの部下も、微笑んで天使の頬にキスを落とすロイの副官も。
どちらもエドワードと対になる白のスーツに身を包んでいた。
リーンゴーンガラーンゴローン
教会の鐘の音が祝福の喝采と共に聞こえてくる。
二人の新郎に挟まれて、花嫁はとても愛らしい笑顔を浮かべて。

「二人とも大好きっ」

世界が音を立てて崩れていく。
ロイの足元の確かな感覚も大きな音をもって抜け落ちた。
暗闇に落ちていくロイから見えるのは、ただ光の中で幸せそうに微笑んでいるエドワード。
愛しい愛しいエドワード。
花嫁姿で自分以外の人間の隣に立つエドワード。





「はあぁぁぁぁぁがあぁぁぁぁぁねえぇぇぇぇぇのおぉぉぉぉぉ・・・・・・・・・っ!!!」





自らの悲痛な叫びでロイは目を覚ました。
あまりにも暗い周囲に、やはり自分は地の底まで落ちてしまったのだと悟る。
しかしよく見回せば、そこは軍の仮眠室として扱われている一室で。
夢だったのだ、現実ではなかったんだとロイは自分に言い聞かせた。
「そうだ、夢だ・・・・・・」
カタカタと震える己の手は恐怖のためか、それとも。
「夢だ、夢だ、夢だ、夢だ・・・・・・」
ロイは何度も自分に言い聞かせる。
冷や汗が流れ落ちてシーツを濡らすのと同時に、ドアの向こうから明るい声が聞こえてきた。
夢の中でも聞いた愛しい声。
ロイは急いで立ちあがり、脱いでいた軍服の上着を手に取る。
現実ではないことを、どうしても確認したくて。
ドアに手をかけた。
―――――――――が。

「あははははっマジで!? うわ、少尉最高! 大好き!!」

ロイは軍服をペイッと放り投げ、ポケットから手袋だけ取り出した。
黙々とそれを両手に填めて、ひとつ大きく息を吐く。
そして今度こそドアを開けた。
視線を移せば廊下を去っていこうとしている金色の愛し子と、背の高いロイの部下。
その片方だけを射程距離内に収めてロイは笑う。
「・・・・・・殺してやる」
暗い色の瞳はやけに据わっていたとかいないとか。



意味不明なことを叫びながら部下を攻撃するロイに、怒ったエドワードが「大佐なんか大嫌いだ!」と叫ぶのは数秒後のこと。





2004年1月29日