092:ヨーグルト
一緒に買い物に行ったスーパーで、真田一馬が一箇所に立ち止まったのを見て風祭将は不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの?真田君」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや」
返事を返しはしたものの、その場所から動かない真田を見て、風祭は同じ方向へと視線を動かす。
冷ややかな空気を漂わせている棚の中で綺麗に陳列している品物。
「・・・・・・・・・ヨーグルト?」
やはり不思議そうに首を傾げた風祭に真田は深く深く頷いた。
それは少しばかり昔のこと。
真田と郭と若菜はクラブの練習帰りに近くのコンビニに寄った。
その際に棚を覗いていた若菜は突然奇声を上げ、店内に備え付けてある籠を取りに走ったのである。
そしてある品物を全部籠に納めるとそのままレジへと直行した。
合計金額は3000円を超えていたのを覚えている。
若菜は、そのコンビニに置いてあったチチ○スヨーグルトを一つ残らず全品買い占めたのである。
「ヨーグルトが一個150円だとして単純計算して計20個は買ったことになるよな。でもってそれを川崎にある練習場から家まで電車で持って帰って・・・。たしかに結人の家は俺の家より全然近いけど、でも夏場なのによくそんなことするなぁって変に感心した記憶がある。そういえば英士もあのとき何も言ってなかったけど、やっぱあれは呆気に取られてたからなのかもな。いくら結人がチチ○スヨーグルトが好きだっていっても、まさかコンビニにあるのを全品買い占めるとは思わなかったし。それも電車に乗って帰るのにさ。あの後聞いてみたら結人の家の近くでは売ってる店がなくなったって言ってて、あぁ結人は好きなもののためなら何でもする奴なんだな、って英士と語った覚えもある。あれはたしか・・・・・・・小学校五年のときか?」
問題のヨーグルトを前にして切々と語り始めた真田に、風祭は夏の暑さでやられてしまったのかもしれない、と思った。
けれどそんな考えに気づきもせず真田は続ける。
「で、その年の結人の誕生日に英士と二人でチチ○スヨーグルトを贈った」
「・・・・・・・・・誕生日に?」
「そう、誕生日に」
真田君だけじゃなくて郭君も意外と楽しい人なのかもしれない、と風祭は思う。
「小五だから小遣いもたかが知れてるし、でも英士と二人で金貯めて、そこらへんのスーパーを回ってチチ○スヨーグルトを買い漁った。全部で50個近くになって、これならさすがの結人も食いきれないだろうって二人で話して」
誕生日なのにそれでいいんだろうか、と風祭は思う。
「結人も呆れて怒るだろうと思ったのに、なのに結人はすげぇ喜んでさ。試合でゴール決めたよりも喜んで、あれには俺も英士も本気でどうしようかと思った」
若菜君もやっぱり楽しい人なのだろうか、それとも変な人なんだろうか、と風祭は悩む。
「で、次に結人の家に遊びに行ったときにはすでにヨーグルトは跡形もなくなっていた」
「え?」
「結人の誕生日から一週間後のことだった」
単純計算して、50個÷7日=一日に7個(あまり1)。
やはり若菜君は変な人だ、と風祭は確信する。
「あれには俺も英士も本気でビビッたしな・・・・・・・・・」
ヨーグルトを見つめる真田の横顔が心なしか青ざめている。
「一日に、7個。平均して205.7分に一個食べてる計算になるし。つまり三時間半に一個は食べてるんだよな。それも毎日」
そういえば真田君の得意科目は数学だったっけ、と風祭は思い返す。
「あのときは本気で結人との友情のあり方について考えたなぁ・・・・・・・・・」
遠い目をする真田に風祭は何も言うことが出来なかった。
けれど風祭は知っている。
本日の夕食と明日の朝食の材料を購入した真田の籠の中に、チチ○スヨーグルトが三つ入っていたことを。
それを見て何だかんだ言っても仲がいいんだな、と風祭は納得したのだった。
2003年7月17日