090:古い映画館
実はずっと前から考えていて。
ようやく実行に移せたと言ったら君は笑うかな。
でもこれが僕の本当の気持ち。
「映画観に行こう、真田」
椎名翼は自身に出来る限りの笑顔を浮かべてそう言った。
あまり流行っているとは言えない映画館。
クラシックというよりはむしろアンティークな雰囲気で、蛍光灯ではなく白熱灯が灯っている。
上映されている作品もCMでやっているようなメジャーなものではなく、一昔前のものをリバイバルすることが中心で。
そのせいか客は少なく、代わりに料金は中学生が800円と一般より手頃。
そんな映画館に椎名は真田を誘った。
「俺、こういう雰囲気の映画館ははじめてかも」
「そう?俺はわりとよく来るけどね。人が多くないから邪魔されることなく映画が見れるし」
「椎名の趣味って映画館のはしごなんだろ?」
「・・・・・・・・・誰に聞いた?」
「え、黒川が言ってたけど」
違うのか?と聞いてくる真田に椎名は頷いた。
その内心ではチームメイトで自分の指揮するサッカー部の部員でもある黒川に激しい怒りを燃やしながら。
帰ったらアイツだけ特別メニューだ、なんて考えながら椎名は笑う。
「今日のは80年代の映画だけどそこそこ面白いから真田でも楽しめると思うよ」
実は、『そこそこ』どころの話ではないのだけれど。
「そっか。じゃあ楽しみだな」
興味深そうに頷いた真田に目を細める。
椎名翼厳選のオススメ映画、スタート。
今まで観た数ある中から選んだ作品。
君の嗜好にあうように、君の趣向にあうように。
退屈などさせないように、この計画を思いついたときから試行錯誤を何度も重ねて。
そして選んだこの映画がどうか。
真田に気に入ってもらえますように。
自分の好きなものを、好きな人にも好きになってもらいたい。
それは恋する者の当然の気持ち。
そしてそれは中学三年生男子にしてはとても小柄で可愛いらしい少女めいた容姿をしていてけれどものすごく口が達者で将来は国立大学入学を期待される頭脳も家柄もサッカーの腕前も何もかもが特上なくせに恋愛にはやけに奥手な椎名翼にも当てはまるようで。
大のお気に入りの映画を前にしても、意識は隣の席へと向かってしまう。
暗闇に浮かぶ、ほどよく日に焼けた肌。
その手を、握れたら。
そんな少女漫画でもいまどきありえないような純粋な恋愛を繰り広げている椎名翼(15歳)。
彼の葛藤は映画と同じく2時間23分続くのであった。
2003年8月10日