088:長距離電話





俺がオランダに留学して、有希がアメリカに留学してからというものの。
自然と俺たちの交流はEメールが中心になっていた。
お互いの練習や試合、その日にあったこととかを報告しあって。
チャットやメッセンジャーもしようと試みたが、やっぱり時差の関係もあって無理だった。
というわけで、俺たちは毎日メールのやり取りをしている。
そのおかげでずいぶんとパソコンにも詳しくなったよなぁ・・・・・・。
『Hello?』
「あ、Hello, may I talk to Yuki Kojima?」
『Ya, please wait.』
突然のアメリカ英語にちょっとビビッた。そりゃアメリカにかけてるんだから当然だよな。
俺もオランダに来たばっかりの頃は英語とか使いまくってたから、どうにか通じてるみたいだけど。
ってことは俺は三ヶ国語話せるのか?うわ、これって実はスゴイ?(まぁどれも完璧ってわけじゃないけど・・・)
『Hello?This is Yuki.』
「あ、有希?」
電話越しとはいえ声を聞くのは久しぶりで、無意識に頬が緩んだかもしれない。
変わらない、有希の声。
『・・・・・・・・・・・・・・・?』
「そう、久しぶり」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「有希?」
久しぶりなのに何で黙ってるんだろう。声が聞きたくて電話したのにこれじゃ意味がない。
そう言おうとした瞬間、受話器の向こうで息を吸い込む音がして。
『バカバカバカバカバカバカッ!!かけてくるなら前もって言いなさいよ!心の準備ってものがあるじゃないのっ!!!』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
いや、確かに声が聞きたいと思ったんだけどさ・・・・・・。
頼むから叫ばないでくれ。マジで鼓膜を直撃したから・・・・・・。(っていうか心の準備って何?)



『な、なんで急に電話なんてかけてきたのよ?』
焦ってる様子の有希が目に浮かんでちょっと笑う。
あぁでもきっと最後に会ったときよりもずっと綺麗になってるんだろうな。
「いや、ちょっと声が聞きたくなって」
『・・・・・・何かあった?』
「特に何も。有希は元気?」
『元気よ。相変わらずサッカー三昧』
「俺もおんなじ」
日本にいたときから変わらない日常に二人して笑う。
その声には何ら無理している感じはなくて。
「・・・・・・・・・よかった」
『何?』
「いや、なんでもない」
メールの文面では少し疲れているみたいだったから。
「有希が元気そうで良かっただけ」
そう言ったら何故か有希は黙ってしまったけれど。(電波が悪いのかもしれないな)



会えないのは物足りないけれど、俺たちは互いに目指しているものがあるから。
そう思えば頑張れる。応援してくれる人はたくさんいる。
俺と有希は独りじゃない。
「有希」
『何?』
「好きだよ。マジで、本当に好きだ」
こうして一緒に前を向いて歩いていける恋人に出会えて本当に良かった。
俺って、やっぱりかなりの幸せ者なのかもしれない。
アメリカにいる恋人と、日本にいる親友を思い出して嬉しくなる。



「・・・・・・っていうか有希。電波が悪いならまた今度かけなおすけど」
再び声の聞こえなくなってしまった受話器に、俺はそう問いかけた。





2003年8月18日