087:親不孝





「ねぇねぇ、ちゃん」
夕食後、リビングでゴロゴロと転がっていたら、ママ上が寄ってきて言った。



ちゃんの彼氏って、一体誰なの?」



彼氏・・・・・・・・・・彼氏?
それはなんだ。つまりは『男の恋人』のことを言ってるんだろうか。うん、たぶんそうだと思う。
「・・・・・・・・・そんなんいないけど?」
「彼女は?」
「いるわけないじゃん!」
ママ上あなた、自分が生んだのは『娘』であって『息子』じゃないでしょう!
娘に彼女がいてどうすんのさ!?いるわけないじゃん!将来的にはどうなるか判んないけど(たぶん出来ないだろうけど!)いないっつーの!!
「なぁんだ、残念。ちゃんならカッコイイから可愛い彼女さんがいても不思議じゃないのにー」
うちのママ上はときに常識を超えマス。
この人が私を生んだのか・・・・・・・。本当にそうなのか?答えてくれ、パパ上。
渡された日本茶の入った湯飲みがやけに熱い気がする・・・・・・。
「えーでもね、ちゃんに恋人がいないっていうのはオカシイと思うの」
この間、優紀と話してたのよー。と笑うママ上。
あぁ、まさにこの人は未知のお人だ・・・・・・・!(ちなみに亜久津のママ上もだ)
そんな私の考えも知らずにママ上はサクサクと話し出す。
「だってちゃんったら、外見はちょっと美少年みたいだけどすっごく綺麗でしょ?背も高いし、手足も長いし、胸も大きいし、腰はくびれてるし」
どうせ私はママ上の着せ替え人形さ。ハハン。
「勉強も運動もどっちも出来るし、お料理だって必要に迫られればやるし、バイオリンはすごく上手だし、性格だってバッチリいいし」
それになにより、とママ上は意気込んで。
「私の娘なんだからモテないはずないじゃないっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
高校のときにミス青学に選ばれたママ上の台詞はものすごく説得力がありました。
片手に饅頭を持っていなければな!



私のママ上はときにセールスウーマンになるらしい。
「長太郎君はどうなの?可愛いしカッコイイし、それになにより幼馴染じゃない。ちゃんのことは行動パターンから服のサイズまでちゃんと判ってくれてるみたいだし。よいと思わない?」
ちょたと恋人になる日が来たら、それはきっと私の人生が終焉を迎える日だ。
「キヨ君は?キヨ君もちゃんとの付き合いが長いしね。それに優しいし、紳士だし。うちに来るときはいつもお土産持ってきてくれるのよねぇ。お話も楽しいし、いいと思うんだけどー」
いえ、とりあえずキヨは仕事仲間なんで。オトモダチだ、オトモダチ。
「裕太君は?照れ屋さんだけど、そこがすごく可愛いのよねぇ。ちょっとぶっきらぼうだけどちゃんには優しいし。仲良しだからよく一緒に出かけたりもしてるじゃない?あれはデートでしょー?」
いや、デートじゃないし。裕太こそまさにお友達だ。心の友だ!
「あとはー・・・・・・リョーマ君?あの子もいいわよね。まだ背は小さいけど発展途上だし、青田買いするなら彼がいいと思うの。綺麗な顔立ちだし、気が強いし。きっと将来はカッコイイ男の人になるわぁ」
青田買いって、ママ上。あなたは何をどうする気なんだ・・・・・・・!?
「翼君もそんな感じよね。彼も将来カッコよくなるだろうし、何よりあの性格は素敵だわ。将来はきっと仕事で成功するタイプよ。でもちゃんと周囲には目を配ってるし、恋人にはバッチリ」
でも翼は私よりも年上だ。青田買いとは微妙に違うんじゃ・・・・・・?
「でもやっぱり旦那様といったら柾輝君よね!彼のあのちゃんと同じ年には見えない包容力は魅力的だし、何よりさりげない優しさがすごくいいもの。柾輝君みたいな人のお嫁さんになれる人は幸せだわぁ」
まぁそれは否定しないけど。否定はしないけど・・・・・・いつの間にか結婚話になってるぞ、ママ上。



ちなみに一応補足しておくと。
・・・・・・・まぁしなくてもいいんだけどな!つーかしない方がいいのかもしれないけどな!
手塚先輩や魔王や跡部が出てこなかったのは、彼らが我が家に来たことがないからだ。
だって手塚先輩はともかく、魔王と跡部を呼ぶ理由がない。そう、それは皆無!つーか来るな、おまえら!
うちのママ上は私と似てなくて可愛いからな!来たらきっと跡部はママ上を口説くだろうし!
魔王の顔はジャニーズが大好きでコンサートにも行っているママ上のめっちゃ好みだろうしな!
だから来るな!絶対に来るな!!



「あ、でもこの間連れてきた子は自分で『ちゃんの彼氏』って言ってたわよね?えっと・・・・・・忍足君だったかしら?」



オーマイゴッド!!(忘れてた!)



そういえばそんな存在もあったっけ・・・・・・・・・・・・・・・・。ふっ・・・・・・。
「あの子もカッコよかったわよねぇ。髪が長くて、眼鏡かけてて。独特の雰囲気があるけど、話してみると関西弁ですごく気さくな感じだし。背も高くて何より手足がすごく長かったじゃない。モデルみたいな体型だったわよねぇ」
言い忘れていたが、うちのママ上は美少年だけじゃなく美青年も好みのうちだ・・・・・・。
ってことは何か?ひょっとして忍足さんは好みの範囲内だったのか?
あんなマックロクロスケもびっくりな腹黒男を!
というか私の知り合いは美形なわりに性格の悪い奴らが多い気がする・・・・・・・。気の、せい・・・・・・・・・・だと、思いたい・・・・・・。
「忍足君が、ちゃんの彼氏なの?」
ワクワクと身を乗り出して聞いてくるママ上は、制服さえ着ていれば恋愛話に燃える女子高生のようだ。
本気で年を感じさせない。むしろ私よりも女子学生っぽいんじゃ・・・・・・・・・。
「お、忍足さんは、そんな、彼氏なんて大したものじゃないよ」
「じゃあなぁに?彼はちゃんのことを『彼女』って言ってたわよ?」
余計なこと言ってんじゃねぇよ、アイツは!
やっぱり家に行きたい行きたいってうるさすぎるからって連れてきたのは間違いだった!
「ねぇねぇちゃん」
ソファーに座っていたママ上が近づいてくる。
身長155センチの身体がメカゴジラよりも大きく見える。
ちゃーん?」
地でソプラノの甘い乙女声が聞こえる。
ポテポテとウサギのスリッパが音を立てる。
ご近所界隈で有名な『天使の微笑み』が目の前に下りてきて。
「・・・・・・・・・、ちゃん」
ニッコリと、ママ上が笑う。



「スイマセンデシタ。忍足サントハ一応『恋人同士』トイウ名ノ関係ニハアリマスガ、ソレハオ互イノ恋愛感情ガドウトカイウ問題デハナク、タダ単ニ『似合ウカラ』トイウ理由デ恋人同士ニサセラレタダケナノデス」
「させられたって、誰に?」
「跡部景吾トイウ男デス」
「キヨ君の話にときどき出てくる?」
「ハイ」
「なぁんだ、そっか!」



ニコニコと笑ってスカートのフリルを翻すママ上。
テレビからダイエットに成功した女の人の歓声が聞こえる。



死・ぬ・か・と・思・っ・た・!



「今度、是非ともその『跡部景吾君』をうちに連れてきてね。会ってみたいわぁ」
コクコクコク。逆らわないが身のためだ。
「後まだうちに連れてきてない子っている?男の子で」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・少々」
「本当!?何で連れてきてくれないのー?ママだって会ってみたいんだからね!ちゃんの周りに集まる子ってみんなカッコイイんだもの!」
あぁ、やはり美少年好きは腐っても美少年好きか。
「それに将来のちゃんのお婿さん候補だし!今からチェックしておかないとねー!」
だから何を。
「個人的にはやっぱり仁君がイチオシかな。だって優紀と親戚になれるんだもの!」
あぁ、親友が自分たちの子供を結婚させるってのは夢らしいねぇ・・・・・・。私には関係ないけどさ。
つーか亜久津と私はお友達だからな。それはないだろう。
むしろありえないでくれ。あぁでもちょたとか忍足さんよりかはありえて欲しいかも。
まぁ、とにかく。



「じゃあ今週の水曜日におうちに連れてきてね!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジですか。



来ていない人。
手塚先輩と魔王と跡部を同時に呼ぶのか?桃は来たことあるし、太郎さんも当然あるし。
あと来たことのない人は・・・・・・海堂はあるしな。誰だ・・・・・・・?
つーか手塚先輩に失礼だよ!「魔王と跡部と一緒にお夕飯を食べませんか」って誘うだなんて!
あぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・でもママ上には逆らえない。何でか知らんが逆らえない!
ごめんなさい、手塚先輩。犠牲になってください・・・・・・・・・。



泣きそうになりながらメールを打って、とりあえずVS魔王のために裕太も呼ぶことにした。
でもってVS跡部のためにキヨも。
これで少しでも被害の少ない夕食を食べれますように・・・・・・っ!



決戦の水曜日まで、あと三日。(つーか時よ止まれ!)





2003年8月7日