086:殴り合いの喧嘩
「スイマセン、テニス部ってここっスよね?」
新入生の部活動体験入部期間などとうに過ぎ去った五月の中旬。
不動峰中学校の新生・男子テニス部の扉がノックされた。
「越前、次の相手はちょっとは骨があるみたいだぜ」
ファンタを飲んでいたところに話しかけられ、リョーマはチラリと相手を見上げる。
神尾アキラはそんな不遜な後輩に小さく笑った。
「青学って知ってるか?」
「知らないっス」
「やっぱりね・・・・・・・どうせそうだとは思ったけどね・・・。むしろ知ってるって方がおかしいくらいだし・・・そうしたら雨どころか嵐が来てもおかしくないかもね・・・・・・・」
伊武はそう呟くが、たいして気分を害しているわけでもなく。
自分の興味を引くもの以外にはてんで食指を動かさないリョーマの反応に部員たちは仕方ないなぁ、と笑って。
橘桔平はテニス選手としてはひどく優秀で、けれどとても可愛らしい後輩の頭を帽子越しに撫でた。
それはまるで猫を撫でているようで、傍で見ていた橘杏が小さく笑う。
「青学はこの地区では常にシードにいる強豪校だ。特にその中でも手塚と不二は全国でも有名だな」
「・・・・・・・・・・橘さんよりも強いんスか?」
「さぁ、それはどうだろう」
曖昧にはぐらかした答えにリョーマはその大きな瞳を細めて。
周りを囲むチームメイトたちを見上げて、楽しそうに笑う。
黒のジャージにつややかな黒髪を重ねて、不敵に。
「でもどんなに強くっても橘さんまでは回らないっスよ。だって俺がいるしね」
過剰なまでの自信に見合った実力があるものだから何も言えなくて。
不動峰の部員たちは頼もしい一年生に笑みを漏らすのだった。
戦績は3戦2勝。石田・桜井と神尾・伊武ペアのダブルスがどちらも勝利し、不動峰は優勝にリーチをかけた。
あの強豪の青学を相手に、無名校の不動峰が土をつけるのか。
誰もが注目している中でシングルス3が始まった。
青学からは二年・海堂薫。
そして不動峰からは一年・越前リョーマ。
両選手がネット越しに顔を合わせて。
背の高い相手を見上げてリョーマは楽しそうに笑う。
「まだまだだね」
この30分後、不動峰が青学を降して優勝を決めたというニュースが会場中に広がった。
2003年7月30日