083:空白





「・・・・・・リョーマ君?」
かけられた声に振り向いた
自分じゃないと、判っていて



部活が休みでたまに出歩いてみれば
自分じゃない、自分に良く似た片割れを呼ぶ声
でも呼ばれているのは自分
呼び掛けが違うだけ
相手が、知らないだけ



「こ、こんにちは」
近づいてくる女の子
長い三つ編み。まぁまぁ可愛い?
でも俺の好みじゃない
頭の中のデータをめくって思い出す
たぶん、この子は竜崎桜乃
リョーマの同級生。父さんの恩師の孫
特筆事項:たぶんリョーマのことが好き



「・・・・・・何してんの、こんなとこで」
笑みは作らずに無愛想な顔して
今は君の望んでいるリョーマを演じてあげる



ねぇ、嬉しい?



「あ、あのね、ガットの張り替えに行くところだったの」
「ふーん」
「・・・・・・リョーマ君は?」
「別に。ブラブラしてただけ」
「そうなんだ・・・・・・」
うっすらと染まってる頬
合わすことが出来なくて彷徨う視線
この子の全部が言ってるよ
『リョーマ』が好き、ってね
あぁまったく趣味が悪い
顔だけならいいけどね
だってリョーマは俺と同じ顔だから



帽子を被ってきたのが悪かったのかな
だからリョーマよりも少しだけ長い髪でも気づかないのかな
服の趣味が近いのが悪いのかな
それともこのそっくりな顔?
それともこのそっくりな身長?
性格とだけは言われたくない
言われたら



「・・・・・・・・・リョーマ君・・・・・・?」
「何?」



上目遣いで見てくる相手をじっと見つめて
案の定、赤い頬をさらに赤くして視線を外される
リョーマ、おまえ良かったな
彼女なら簡単に恋人になってくれそうだよ
オメデトウ?



今日はこのままブラブラしてようと思ってたけど、やっぱり変更
楽しそうなオモチャ、見つけたから



「ねぇ」
「えっ!?な、何・・・・・・?」
「ガットの張り替え行くんでしょ。俺も行っていい?」
「え!」
「ちょうど新しいラケットとか見たかったから」



真っ赤な顔で頷いちゃって
あぁ、本当にリョーマのこと好きなんだ?
でもゴメン。俺はリョーマじゃないから
君の望んでいる相手じゃない



ごめんね、リョーマじゃなくて
でもその分オイシイ思いをさせてあげるよ?
君がリョーマだと思ってればそれは本物
俺にとっての君は贋物
それでも、ねぇ
楽しませてあげる



「行こ」
そう行ってさっさと歩き出した
後ろから慌てたようについてくる足音
それがいつまで経っても変わらないから、振り向いて笑ってみせた
リョーマみたいに、生意気に



「ねぇ、隣歩けば?」



君をシアワセにしてあげる





2003年9月18日