082:生徒会室
静かな生徒会室に、紙の擦れる音がする。
コーヒーの芳しい香りと、チョコレートの甘い匂いとが混ざって。
居心地の良い場所。
言葉にしたことはないけれど、手塚はこの空間が気に入っていた。
「手塚、これ」
隣の机から伸ばされてきた書類を受け取って。
「文化祭実行委員の会議は一時間じゃ終わらないだろうから、別の日にした方がいいと思うんだけど」
「・・・・・・あぁ、そうだな。だがそうすると・・・・・・」
「後ろにずらすのは無理だけど、前になら持ってこれるでしょ?二日前の六時間目の文化祭準備時間と、そのまま放課後にも流れ込んで」
「ならば視聴覚室ではなく会議室を用意した方がいいな」
「うん、手配しとくわ。第三でいい?」
「あぁ、に任せる」
「オッケー」
書類を返すとクルクルとペンを回しながらが新たに書き込みを加えて。
少し遠くの机で作業している書記のところまで歩いていくと、何やら説明をし始めた。
何度か頷く書記の姿が見えて、が渡したプリントを受け取る。
そして再びパソコンへと向き直った。
カチャカチャとパソコンのキーボードが立てる音と、サラサラとペンが書類を走る音。
静かだけれど仕事のはかどる空間だ。
手塚は気を取り直して自分も書類へと向かった。
青春学園中等部の生徒会は他校でも有名である。
その執務の質の高さも正確さも、機動力や成功率なども素晴らしいものがある。
そして何より青学生徒会には会長・副会長をはじめ美少年美少女が勢揃いしていて。
文化祭などのイベントになると他校からの来場者も多い。
生徒会の実力を見に来るとか言いながらも、もちろん実際は彼らメンバーを一目見るためである。
その客寄せのせいか、青学の文化祭は一般来場者も含めたかなり大規模なものであった。
ひとまず仕事も一段落して、自ら全員にコーヒーを振舞う。
それはもう苦手な人にはカフェオレ砂糖入りなどの配慮までちゃんとして。
手塚は何も入っていないブラックコーヒーを受け取った。
お茶請けには秋限定のチョコレート。
「とりあえず招待状を出すのは去年来た学校だけでいいわよね?」
「何校になる?」
「20から30じゃない?都議会議員の方々のリストは先生が後で持ってくるって言ってたし」
「応接室を二つ・・・・・・・いや、三つか」
「場所によるわよね。他校の生徒会は大きいところ一つでいいんじゃないの?お偉いさんは特別応接室で」
「・・・・・・・・・そうだな、そうした方がいいだろう」
「お偉いさんは私が行こうか?」
サラリと言ったに手塚が一瞬固まった。
二人の間に置いてあったチョコレートはその間にも着々と減っていって。
相手の動揺を知りながらも、はチョコレートを食べる手を休めずに話を続ける。
「手塚は挨拶とか苦手でしょう?私なら慣れてるし、それに話も合うだろうしね」
「・・・・・・だが、学校でまでそんなことはしたくないだろう?」
「使えるものは使わなくちゃ。議員へのコネは十分にあるけど少ないよりは多い方がいいもの」
「・・・・・・学校を商談の場にするな」
「判ってるって」
笑って頷くの横顔に一瞬三上財閥の令嬢としての顔が覗いて。
手塚は眉間に皺を刻みながらも、とりあえず来賓のことはへと一任した。
「申し訳ないと思うなら当日にクレープでも奢ってね」
「チョコバナナクリームか?」
「うん、大好き」
嬉しそうに笑うに手塚もつい笑みを漏らした。
その顔が素顔のの顔だったから。
この笑顔が見れるのも、この部屋の特権。
「楽しみね、文化祭」
「あぁ、そうだな」
その前に来る怒涛の準備期間は見ない振りをして。
会長と副会長はにこやかに笑うのだった。
2003年9月28日