077:御伽噺





真っ白なシーツを背に感じて、はほんの少し怯えたような表情を浮かべた。
それを宥めるように敦は額の髪をかきあげて、軽いキスを落とす。
「・・・・・・・・・西城・・・・・・」
「“敦”だろう?――――――――――
めったに呼ぶことのない名前を呼ばれて、ふんわりとはにかんだ様な笑みを浮かべる。
可愛らしいの表情に敦も微笑んだ。
そしてそっと、唇を重ねる。
最初は軽く触れあわせるように。
何度もそれを繰り返して互いの唇が湿り気を帯びた頃、薄く開かれた唇から舌を差し入れ、ゆっくりと口内を味わう。
「・・・・・・・・・ん・・・・・・っ・・・」
鼻にかかった甘い声が漏れて、敦が気を良くしたようにその整った顔で笑った。
角度を変えて口付けを繰り返し、その間に手早くシャツのボタンを外していく。
素肌の胸に触れられて、ビクッと身体が反応して。
うっすらと紅く染まった頬を撫でられ、は目を閉じた。
「・・・・・・・・・敦・・・」
その身体に口付けを受けて。
――――――甘い声が上がる。




「ちょっと誰!?この続き持ってるの誰!?」
「お、おおおおおお落ち着け、郭」
「うるさいよ、内藤!で、誰!?」
「はい、郭。今のところはこれが最新刊だって」
郭英士・内藤孝介・杉原多紀。
B5サイズ・32P・90g・400円の同人誌を読み進めている。
ちなみに現在はシリーズものの第4巻まで発売中。



「あ、このサイト新作アップしてる」
「え?マジで?どんなの?」
さんと西城さんが同じ小学校だったっていう出会いのヤツ」
「何それ!?俺いま初めて聞いたんだけど!」
「あ、それなら俺も知ってる。連載小説だろ?たしか東京が舞台の」
「えーうっそマジで!?うわ、俺に読ませて!!」
黒川柾輝・藤代誠二・小堤健太郎。
デスクトップの液晶画面を見つめながらネットサーフィン中。
ちなみに当然のように女性向けサイトを徘徊。



「やはり西城さん×さんが王道なのか?」
「俺は西城さん受け派なんだけどなー。でもサークルもサイトも少ない茨だし」
「ウェブリングはないから同盟とかで見つけなきゃだし。でもさん×西城さんって見ないよなぁ」
「西城さんが受けなら相手は周防選手など、年上になってしまうからな」
「「だよなー」」
渋沢克朗・桜庭雄一郎・上原淳。
煎餅と緑茶を片手に好きCPについて討論中。
ちなみにウェブリングや同盟、果てやサーチは両手両足では足りないくらいにあるらしい。



「じゃあ注文は西城さん×さんが2冊、小島明希人×さんが1冊、さん総受けが3冊でいいか?」
「あ、水野。オールキャラ本も一冊追加で」
「畑、それ読み終わったら俺にも回せよぉ?」
「判ってるって。どうせ選抜中に回るんだろうしなぁ」
水野竜也・畑六助・鳴海貴志。
サークル配布のペーパーを見比べながら通販について相談中。
ちなみに代金は最初の内に徴収しておくことになっている。



「なぁなぁ一馬。この前見つけたパラレルのサイトってどこから行くんだっけ?」
「パラレル?」
「そーそー。さんが遊郭の女郎で、西城さんがそこに通う大商人の息子。さんの客には他に周防選手とか小島選手とかいたりして。結構楽しかったぜ?」
「・・・・・・・・・若菜、それって18禁サイトとかじゃないのか?」
「細かいこと言うなって!そんなこと言ってたら俺ら男はサイトに入ることも出来ないじゃん」
「まぁ・・・・・・そうだが・・・」
「一馬、アドレスー」
「・・・・・・たぶん、『12人目の選手』ってサーチから行ける。パラレルのカテゴリーにあったと思うし」
若菜結人・木田圭介・真田一馬。
持ち込んだノートパソコンを開きながら年齢的に入れないだろうサイトを閲覧中。
ルールはちゃんと守りましょう。



「次のイベントっていつだ?」
「確か来週の日曜だろ?どこかの連盟会館って聞いたけど」
「あ、それなら俺知ってるぜ!クラスの女子が行くって言ってたからな!」
「・・・・・・・・・うちの女子は売り子として参加すると言っていた」
谷口聖悟・伊賀仁吉・小岩鉄平・間宮茂。
近々都内であるらしいオンリーイベントの予定を確認中。
果たして本気で行くのだろうか、それは彼らにしか判らない。



見方を変えなくともある意味ものすごく変な状況に陥っているチームメイトたちを見ながら椎名翼は思った。
これがと西城に知れたらどうなるんだろうか、と。
きっとあの二人のことだから気づかないわけがなく、むしろ今もリアルタイムで自分たちの現状を把握していそうな気さえして。
そんな在りえなさそうで在りえそうなことを考えながら椎名はゆっくりと瞼を下ろす。
可愛らしい顔には諦めと苦渋の表情が浮かんでいた。



「・・・・・・俺たちをコッチの道に目覚めさせて何が楽しいんだよ、玲・・・・・・・・・・・・・・・」



付き合いが長い割に理解できない親戚に溜息を一つ。
彼女の指示とはいえ、チームメイトたちに同人誌を見せたことを後悔する椎名なのだった。





2003年8月1日