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073:ドミノ倒し
「・・・・・・・・・うそ・・・」
呟いた私の言葉に、正面のユカちゃんは遠慮なく首を縦に振った。
2年4組のクドウアキノ君。
サッカー部のレギュラーで、練習試合なんかだと他校の女の子も見に来るようなカッコイイ男の子。
大きな黒い目と、少し茶色のふわふわの天然パーマの髪が可愛くって。
身長は結構高いし、それに何より手足が長いし!
運動も勉強も人並み以上にこなせるけど、それを鼻にかけたりしてないから、彼は女の子にも男の子にもすごく人気がある。
この前も一緒に日直をやったときに、重たい荷物とか全部自然に運んでくれたし。
後で気づいてスゴイ驚いちゃった。それで、優しいな、カッコイイなって思ってて。
そんな矢先にユカちゃんの台詞。
「クドウ君、彼女いるんだよ!!」
その衝撃、ビックリマーク二つじゃ到底表せないよ・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・そ、それ・・・ホント・・・・・・?」
まだ半信半疑、というか90%疑ってる私が聞くと、ユカちゃんは怒ったような顔をして頷く。
「ホント!!何?私がクドウ君を他の誰かと見間違えると思ってるの!?」
「・・・・・・・・・・いや、思わないけど・・・」
ユカちゃん、中学校に入学して以来ずーっとクドウ君のファンやってるし。
練習試合とかも欠かさずに見に行ってるし、体育祭とかでは一緒に写真とかも撮ってもらってるし。
だから、ユカちゃんがクドウ君を見間違えることはおそらく90%以上の確率でない。
ってことは・・・・・・・・・。
「・・・クドウ君に彼女・・・・・・・・・」
それってもしかして、学校中を騒がす大ニュースなんじゃ・・・・・・?
ユカちゃんは拳で机をドンッと叩いて興奮気味に先を続ける。
「そう、そうなの!だってこの間の日曜日にちょっと買い物に行ってたら、偶然にクドウ君を見かけて!話しかけようかな、どうしようかな、ひょっとしたらお昼くらい一緒に食べれるかもって思って!」
ユカちゃん、それって激しく抜け駆けです。
「そうしたら~~~~~っ!」
ドンドンドンと机が何度も叩かれて。
「なん、かっ!隣に誰か、いてっ!しかも腕とか組んでて!すっっっっっごい親しげで、でもってものすごくラブラブで!!」
「・・・・・・・・・どんな子だったの?」
「―――――たぶん・・・・・・ちょっと年上」
「年上ぇ!?」
「うん、絶対!高校生くらいの雰囲気だったもん!髪とかストレートのサラサラで、スタイルとかすごくよくって、顔もめちゃくちゃ綺麗で可愛くって~~~っ!!」
ユカちゃんが憤慨して怒ってる。
いつも同性の採点には厳しいユカちゃんがここまで言うだなんて、きっとすごく綺麗な人なんだろうな・・・・・・。
「・・・・・・・・・クドウ君に年上の彼女・・・・・・・・・・」
「ずーるーいーっ!!私なんかずーっとずーっとクドウ君のこと好きだったのに!!」
「あ、でもホラ、従姉とかかもしれないじゃない?」
「そんなことないっ!ぜーったいに彼女だった!!」
フォローも跳ね除けられてしまった・・・・・・。
クドウ君に彼女。しかも年上の、綺麗な人。
・・・・・・うん、たしかにいても不思議じゃないかもしれない。だってクドウ君はあんなにカッコイイんだし。
年上の人がクドウ君を好きになっても仕方ないかもしれない。
でも、やっぱり、ちょっと・・・・・・・・・・。
・・・切ない、かなぁ・・・・・・。
そんなことを考えていたときに、教室のドアがガラッと開いた。
「―――――あれ?まだ帰ってなかったのか?」
現れた影に、思わず私もユカちゃんも椅子から立ち上がって。
「な、なななななななななな・・・・・・・・・っ!」
「クドウ君っ!?な、なんでここに!?」
「・・・・・・・・・なんでって、部活が終わって忘れ物取りに来たんだけど・・・・・・・」
ごめん、何か話中だった?とクドウ君が首をかしげる。
その拍子に茶色のふわふわの髪が揺れて。
困ったように笑う顔もすごくカッコイイ。
でも、クドウ君にはすでに好きな人がいて。
机の中からノートを取り出して、「じゃあな」って言って教室を出て行こうとする。
その背中がいつも以上にたくましく見えて。
「―――――クドウ君っ!」
知らないうちに声をかけてしまった。
何やってるんだろうって思ったけど、振り向いたクドウ君にどうにか笑って見せて。
スカートの裾を、ギュッと握る。
「・・・・・・・・・また、明日ね?」
ユカちゃんが目を丸くして私を見てる。
うん、私も何やってるのかなって思う。こんな、彼女持ちの人に。
でもクドウ君はいつもどおり笑ってくれて。
「あぁ、またな」
――――――――――ほら、カッコイイ。
彼女がいるってことを知ってから好きになるなんて、もう本当にどうしようもない。
それでもクドウ君が好きな私は、本当に救いようがないんだなぁ。
でも、そんな自分が少しだけ愛しかった。
2003年8月25日