071:ポーカー(ポーカーフェイス)






シューズの紐を結んでいる最中に名前を呼ばれ、は声だけで振り向いた。
「何、太郎」
「最近おまえが年上の女性に入れ込んでいるという噂を聞いたが、本当か?」
きつく結べたのを確かめてから、ベンチに立てかけてあったラケットを持って立ち上がる。
目の前には色素の薄い髪に大人びた雰囲気の同級生がいて。
はそんな彼に楽しそうに笑って頷く。
「そうだけど、悪い?」
「・・・・・・・・・いや」
全然そう思っていないだろう親友に、榊太郎も同じように笑った。



氷帝学園中等部男子テニス部。
強豪校であるこの部活に所属する生徒は優に200名を超す。
その中でもかなりの努力と才能を必要とする一握りの正レギュラーに、榊とは存在していた。
さらに榊は部長として、は副部長としてテニス部を統括していて。
昨年の全国優勝にも二人は大きく貢献している、紛れもないテニス部の要。
そんな彼らは部員たちに指示を出しながらも小さく会話を続けていた。



「おまえがそこまで入れ込むとはな。一体どんな女性だ?」
「年齢で言うなら一回りくらい年上かな。確かめたことはないから判らないけど」
「女性に年齢を聞くのはマナー違反だろう」
「外見は完全に俺の好み。あまりの綺麗さに見惚れることもしばしば」
「綺麗系なのか。細身でスレンダーの」
「趣味はサッカー」
「サッカー?」
「そう。元はLリーグのプロ選手だったらしいよ。ネットで検索したら情報もたくさん出てきたし」
「テニスはされないのか?」
「聞いたことないけど、たぶん。でも運動神経はすごく良さそうだから上手いだろうね」
の好みということは・・・・・・落ち着いていて頭の良い女性か」
「まぁね。太郎の好みは大人しくて芯の強い女の子だろ?」
「あぁ。中々そういった女性には巡り合えないが」
「お先に失礼」
「是非とも今度紹介してもらおうか」
「玲さんが俺の恋人になったらね」



軽く打ち合っていたボールはいつの間にか本気のやり取りになっていて。
互いに際どいコースを狙いながら楽しそうに笑う。
このときに見せる表情は、彼女がサッカーをしているときに見せるものと同じで。
だからこそ、惹かれたのだと思う。



同じものを、見ている相手に。



「完全な姉さん女房になりそうだな」
「望むところだよ。玲さんならいくつ年上でも喜んで」
「そういうことは恋人になってから言うといい」
「・・・・・・・・・こう言うのは何だけどね」
浮かべた苦笑を瞬き一つすることで綺麗に消して。



「俺は玲さんに好きになってもらう自信があるよ。―――たとえ、何年かかろうとも」



試合のときと同じ表情を浮かべてみせるに、榊も口元を上げて。
まだ知らない親友の想い人を想像する。
きっと似合いの二人になるだろう。
こんな顔で笑うが負けることはないのだから。



「楽しみにしている」
拳を合わせて、二人は笑った。





2003年8月8日