070:チェス





男女間の友情なんて成り立たないと思ってた。
それも全部、に会うまでの話。



休み時間になるたびに携帯を取り出してるに呆れて溜息をついた。
まぁ授業中に鳴らないだけマシかもね。っていっても以前にが「授業中は授業を受けてるから」って言ったせいだろうけど。
大人しく言うことを聞いているあたり犬に近いんじゃない?が飼い主で、忍足だっけ?あいつが犬。
「よくもまぁ休み時間ごとにメールしてこれるね。その執念と根性には脱帽って感じ?」
「うん、私もさすがにそう思うかも」
「まぁいちいち返事を返してるもそれなりだと俺は思うけどね」
「うん、私もちょっとそう思う」
苦笑しながら送信ボタンを押してメールを電波に乗せる
これが数秒後には忍足の元に届いてアイツを喜ばせるわけだ。あーぁ、なんてお手軽。
「喜び回る様が目に浮かぶよ」
俺の言葉にはやっぱり苦笑した。



中学三年のとき、必要ないけど保険として通わされた塾で俺はと出会った。
出会ったっていうのも変かな。名前だけは公開模試の順位とかでときどき見かけてはいたし。
だけど生身のに出会ったのは、そのときが最初だった。
特別真面目そうにも見えない、かといって遊んでいるようにも見えない、いたって普通の地味な女子。
それがに対する俺の第一印象。
だけど、はそれを良い意味で裏切ってくれた。



俺はこのとおりの男だし、女の友達なんて出来ないもんだと思ってた。
世の中、稀な人間って確かにいるもんなんだね。



氷帝学園中等部という坊ちゃん嬢ちゃん学校にいたは、あまり大差ないという理由で公立高校を受験した。
そしてそれは俺と同じ学校で。というか同じような学力レベルだったから、意図的に同じにしたんだけどね。
だってこんなに面白い奴と同じ学校に通える機会、逃すわけないじゃん。
俺の唯一の女友達、
恋愛と友情を履き違えることなく接してくれるは本当にイイ女だと思う。
まぁ俺にとっては『友達』であって『恋愛対象』にはならないんだけどさ。
忍足もたぶん、のこういうところに惹かれたんだろうね。去年の夏に一度見たきりだけど、アイツ、女関係派手そうだったし。
だからきっと物珍しそうにに近づいて、そうしたら物の見事にハマッて抜けられなくなったんだろう。
ミイラ取りがミイラになった?あぁ本当にご愁傷様。
でもが相手なら別にいいって言うんだろうね。今現在、完璧にバカップルな彼氏になってるみたいだし。
休み時間ごとにメールしてくんなっての。俺との遊び時間を減らすわけ?
うわムカつく。向こうは向こうで俺にムカついてるんだろうけど。
でも残念。同じ学校に三年も通っていたのにの良さに気づけなかったおまえが悪いんだよ。



「どうしたの、椎名君」
ちょっと忍足で遊んでいた俺にが不思議そうに問いかけてくる。
机の上に出しているのは化学の教科書とノートと資料集。そうえいば次は移動だったっけ。
「つ・ば・さ」
「・・・・・・翼君」
それってちょっと前のサッカー漫画の主人公みたいで嫌なんだけど。まぁいいか、だし。
呼び捨てで呼ばないのは忍足に対する配慮だろうしね。
「実験室だっけ」
「そう。レポートにして提出って言ってたと思う」
「結果と考察だろ。なら楽勝だね」
提出物はさっさと終わらせて、あまった時間はサッカーに費やす。
それが俺の目指す高校生活。スパイスと楽しみが加われば尚良しといったところ。
そのための一部がと忍足だったりするんだけどね。



、今度忍足のこと紹介してよ。絶対に楽しいだろうから」
「楽しいのは翼君だけだと思うけれど」
「忍足は悔しがるだろうね。俺とが同じ学校なのに対してさ」
「・・・・・・悔しがるかな」
「悔しがるよ。アイツ、めちゃくちゃのこと好きみたいだし。だってそうだろ?」
「うん、私も忍足君のこと好きだよ」



とりあえず、名前呼びな分だけ友情の方が一歩リードって感じだね。





2003年9月4日