066:ミルクティー





「・・・・・・だからな、やっぱり缶の紅茶は不味いと思うんだ。特にミルクティーは」
「あぁ、確かに俺もそう思う。ミルクティーは甘すぎるのが多いよな」
「女性向けに作られてるからかもしれないけれど、俺は紅茶が好きだから困るんだ」
「水野の淹れる紅茶ってすごく美味いよな。香りもちゃんとするし、薄くもなく濃くもなくて調度いいし」
「そうか?ありがとう、真田」
「この前淹れてもらったのも美味しかったしな」
「でも真田が持ってきてくれたレアチーズケーキも美味しかったよ。やっぱり料理が上手いんだな」
「やっぱりって何だよ、やっぱりって」
「いや、だって弁当とかも手作りだろ?そう聞いてたから」
「うん、そうだけど」



真田がチョコレートケーキを切り分けている間に、水野が砂時計をひっくり返して紅茶を淹れる。
部屋に広がるのは甘くて心地よい香り。
一時のティータイム。
互いのケーキと紅茶を褒めあってから何気なく会話を進める。
「水野のお母さんも料理得意だよな。ポトフのレシピとか頼んだら教えてもらえないかな」
先日夕飯でご馳走になったメニューを挙げると、水野が小さく笑う。
「母さんも真田のこと感心してた。『男の子なのにあそこまで料理が出来るなんてスゴイ』って」
「水野は料理しないのか?」
「俺はあんまり。母さんとおばあさんがいるから台所に入る機会ってあんまりないんだ」
「お姉さんたちは料理しないのか?」
真田の一言にカップを握っていた水野の手がピタリと止まる。
今、真田は『お姉さん』と言った。
水野は一人っ子なので姉はいない。それは時々こうして水野家に遊びに来ている真田も知っているだろう。
ならば誰だ、『お姉さん』とは。
・・・・・・・・・・浮かび上がるのは二人。
そして奇しくも真田は『お姉さん』を複数形で呼ばなかっただろうか。
まさか、まさか・・・・・・・・・。
「お、叔母さんたちのことか・・・・・・・・・・?」
「?そうだけど」
当然のように頷いた真田に水野は大きく脱力する。
そしてようやく思い出した。
初めて真田を家に連れてきたときにあのよい年した『お姉さんたち』が言っていた言葉を。



『あの一馬君っていう子めちゃくちゃ可愛いっ!綺麗でカッコイイなんて最高じゃないの!』
『お料理も出来るし家事も出来るし、お婿さんに欲しいーっ!』



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・真田」
「何だよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、なんでもない」
変な水野、と呟いて紅茶を飲み干す真田に水野は誓った。
もう二度と、『お姉さんたち』のいるときに真田を呼ぶのは止めよう、と。



その企みが姉妹の結婚を願う自分の母によって破られるだろうことを、水野はまだ知らないのだった。





2003年8月26日