060:長い夜
手を伸ばしても届かない夢を見る。
「よ、セブルス。また面倒くさい魔法薬学の論文なんか読んでんの?」
突如かけられた声にセブルス・スネイプは眉を顰めながらも紙面から目を逸らさずに毒づいた。
「。いくら話したところで貴様に魔法薬学の美しさは判らんようだな」
「俺の判る美しさってのは七色に光るレインボーキャンディで作られた帆船模型さ」
「・・・・・・そんなくだらないものを誰が作った」
「俺とジェームズ。ちなみに材料提供者はリーマスな」
「ブラックはさぞかし嫌がったことだろう」
「部屋に戻れなくてずーっと談話室」
「良い気味だ」
低く笑ったセブルスにも同じように笑いながらソファーに腰を下ろす。
さりげなく横に寄ってくれるセブルスに気づき、は嬉しそうに笑ってその腕を押してさらにソファーの端へと押しやった。
ぐぇ、とカエルが潰れるような声がして。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
「なになにー?コオロギの羽を大さじ一杯、それに磨り潰したドラゴンの肝?何だよ、コレって『雲作り製法』じゃん」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
「止めとけ止めとけ。気象関係の魔法は難しいって。セブルスちゃんにはまだ早いでちゅよー」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いい加減に・・・・・・・っ!」
「んー?」
「退かんか、この馬鹿者っ!!」
文化系のあまりない背筋を駆使してのっかかってきていたを退かすと、笑いながらソファーの端へと転がる彼がいて。
セブルスは憎憎しげに蹴りを食らわせた。
「まぁまぁ落ち着きたまえよ、セブルス」
「貴様が余計なことをしなければ我輩はいつでも落ち着いていられる」
「でも俺がいたほうが楽しいっしょ?」
ニコッと笑って言われた台詞にセブルスはフンッと鼻を鳴らして。
そしてまた論文を広げだす。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・このクルクル草についてどう思う」
「本来ならばミネギク花じゃないかって?でもそうしたら雲が黄土色になっちゃうじゃん」
「それは白蜘蛛で調節すればいいだろう」
「白蜘蛛とドラゴンは相性悪いけどそれはどうすんの?」
「熱処理を行って、それから数日寝かせれば・・・・・・・・・」
言いかけてハタと言葉を止めたセブルスには目を細めて笑う。
「気がついた?」
いつもとは違って優しく、ひどく柔らかく笑って。
眉間にシワを寄せて羊皮紙を睨んでいるセブルスにその表情は見えなかったけれど。
はとても、愛しそうに。
「熱処理は白蜘蛛とドラゴンを合わせたときの即効性を鈍らせる。それだけならまだしも、何日も寝かせることによってミネギク花の花粉が落ちてしまうから、もう薬としては使えないね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「気象関係の魔法で気をつけるべきは材料の組み合わせ。製法だけを見てると意外に思うかもしれないけど、実際はどれもちゃんと考えてあるんだよ。セブルスもまだ過去の研究者たちには敵わないな」
「・・・・・・・・・一介の学生が敵うものか」
「努力次第だと俺は思うよ」
その言葉につい顔を上げた。
隣に座っているがあまりにも穏やかな顔をしていて。
時たま見せる無防備な素顔に、セブルスは見惚れずにはいられない。
何かを悟ったように
この世のすべてを知ってるように
そんな顔をして笑うから
「俺はセブルスの未来に期待してるよ」
自分よりも成績の良いに言われても信用できないとか。
同学年で同じ年の奴にそんなことを言われても仕方がないとか。
色々と言いたいことはたくさんあって、どれも咽まで出かかっていたのだけれど。
「・・・・・・・・・勝手にしろ」
こんな台詞しか言えないセブルスに、は楽しそうに笑って頷く。
まるで、何もかも見透かしているように。
そしてまた二人して論文を覗き込んで議論を交わす。
それは、眩しい未来を自分の手で掴めると思っていた頃。
2003年7月19日