055:人形





ローブと引き換えにゆんゆんのワッペンを強奪することに成功した。
あー良かった!正直片腕くらいは差し出さなきゃいけないかもとか思ってたんだよね。
これで残ってるのは私、渋沢さん、翼さん、須釜さん、風祭君、光宏の計6人。
さっきの放送では佐藤さんが亡くなった・・・もといワッペンを取られたって言ってたなぁ。
一体誰がやったんだろう。佐藤さんを倒すとはそれは素晴らしい実力の持ち主だろうに。
うーん、うーん・・・・・・・・・。
「ひょっとして須釜さんですかー?」
「はい、実はそうなんですよ〜」
犯人は意図も簡単に名乗り出てきてしまった。
すべての殺人事件がこうだったら二時間サスペンスなんかなくなちゃうよ。あぁつまらん。



正直、私は須釜さんに勝てるとは思わない。まぁでも負けはしないけど。
でも戦って無事でいられるかとなると話は別なんだよねぇ。相打ちを選ぶくらいなら逃げを選ぶし。
というわけで、とりあえずは説得でもしてみますか。
「こんにちは、須釜さん。お久しぶりです」
「お久しぶりです、さん。時間にしてはあんまり経ってないんですけど、ずいぶんと会ってなかった気がしますね〜」
「それはきっと短い間に色々なことがあったからだと思います」
「たとえば李君や郭君と戦ったり?」
「佐藤さんと対決なさったり」
「あぁ本当に色々ありましたね〜」
「でも須釜さんはお元気そうで何よりです」
さんこそ大した怪我もなさそうで何よりですよ〜」
「ありがとうございます」
説得、失敗。どうやら私はネゴシエイター(犯罪交渉人)には不向きな様子。
あーあぁ。これで就職口が一つ減っちゃったよ。まぁどちらかと言えば交渉される方だから気にしてないけど。
「レイブンクローはまだたくさん残ってるみたいですね」
「そんなことありませんよ。ただ運が良かっただけかど」
「スリザリンは李君も負けちゃったから僕一人なんですよ〜」
「あら、それはそれは」
さん、譲ってくれませんか〜?」
「メリット次第ですけれど、今は少なくともそういう気分ではないので。申し訳ないですけれど」
このゲームがものすごく楽しいので譲る気はないんだよねぇ。ごめんなさい、須釜さん。
だって好き勝手に遊べるんだよ?魔法で攻撃しても素手で殴り飛ばしても何でもオッケーなんだよ?
こんな機会は滅多にないし、今遊んでおくに限るね!
あぁこれだからやっぱり私は攻撃魔法系が得意なのかもしれないなぁ。うん、闇の魔法に対する防衛術も得意だけどね。
まぁそういうわけでさ。
「ごめんなさい、須釜さん」
「いいえ、お互い様ですから〜」
ゲーム、開始。



「ルーモス、光よ!」
「インパービアス、防水せよ!」
うっわぁ、さすが須釜さん!杖の先に光を灯す呪文を応用して私の服に火をつけるなよ!
これじゃ放火犯だって疑われても文句は言えないって!つーか警察に突き出して金一封をもらう方向で検討したいんだけど。
追いかけてくる須釜さん。ダッシュで逃げる私。足の長さからいって不利に決まってるし!
召喚魔法で箒を取り出す。学校の倉庫から箒が一本消えてるかもだけど、それは事後承諾ということで。
クイディッチの選手ではないけれど、それでも飛行術は得意だしね。須釜さん、勝負!
「リクタスセンプラ、笑い続けよ!」
「タラントアレグラ、踊れ!」
かかったら楽しいだろう呪文はお互いに相殺して消えてしまった。もったいない。
――――――――――って、まっすぐ行ったら大広間に出ちゃうよ。それはマズイ?
大広間はゲームオーバーになった人たちが巨大モニターを眺めながらお菓子を食べているという素晴らしい楽園だし。
それを邪魔しちゃ悪いよねぇ。たとえいくら私がお腹が減っててスコーンが食べたい状態であろうとも!
・・・・・・・・・・・・でも木田さんの淹れてくれるコーヒーが飲みたいなぁ。
というわけで、決定☆
「お邪魔しまーす!」
開錠の呪文を唱えてから勢いよく扉を開けて大広間へと乱入した。もちろん須釜さんもついてきて。
フィールドを変えて第二バトル開始!



あぁ、それにしてもやっぱり須釜さんは強い。繰り出される呪文の数々に感心しちゃうよ。
でもまぁギャラリーもいることだし?寮の点のためには負けるわけにもいかないしねぇ。
「そろそろ勝負を決めましょうか〜」
須釜さんに台詞を取られてしまった。まぁいいか、こっちから仕掛けるってことを教える必要もなくなったみたいだし。
お互いに箒に乗って宙に浮いている状態で、須釜さんは何やらローブの中へ手を入れて小さなビンを取り出した。
あの色、形状、含まれている成分の欠片からいって・・・・・・・・・。
「ふくれ薬、ですか?」
あの、薬がかかった部分だけが異様にふくれてしまうという恐ろしいお薬?
「えぇ、さすが魔法薬学に詳しいさんですね。正解です〜」
「須釜さんこそ、それはご自分でお作りになられたんですか?」
「はい、教科書を見ながら作りました〜」
そうか、一体何年生の教科書を見ながら作ったんだか・・・・・・・・・。謎が謎を呼ぶ、須釜寿樹?
下の方では「スゴイ」だの「うわぁ」だのという歓声も聞こえてるし。
つーかさ、逃げた方がいいと思うよ?これでもし須釜さんがバランスでも崩してビンを落としたら被害を受けるのは君らなんだし。
あ、でもレイブンクローとスリザリンの一部は端に避難してるなぁ。さすがだね!
互いに箒に乗っている状態で薬を相手にかけるのは難しい。ということは必然的に・・・。
「これをここにいる皆さんにかけられたくなかったら、さんのワッペンを僕にください」
須釜さんはニッコリ笑ってお言いになった。さすが悪徳代官だね!
ギャアとか止めろとかいう悲鳴が聞こえるよ。須釜さん、ホグワーツ日本校の面々を完全に敵に回したな・・・・・・。
まぁ手段を選んでちゃ勝てないからね。私が須釜さんでもそうしたかも。
でも、ごめんなさい。
須釜さんに負けじとニッコリ微笑んで言ってやった。
「どうぞ、ご勝手に?」
あぁ、私も一気に敵を増やしたよ・・・・・・。



脅しを実行出来なければ最初から脅したりする資格はない。
その点で須釜さんは十分に悪役になれる方だったようで。
キュポンッと外されたコルクの蓋。横に伸ばされた腕。
地球の重力によって落ちていく小瓶。
溢れる液体。どす黒い緑色。
それでも笑顔な須釜さん。
あぁ、やっぱりこの人って結構好きかもしれないなぁ。
敵役が好きっていうのは一般的なことだしね。
・・・・・・・・・ってことは何か?この場合は私がヒーローか?
えーやだなぁ、それって。



懐から小さなビンを取り出して、落下しつつある緑の液体に向かって投げつけた。
まっすぐに杖を向けて一言。
「ワディワジ、逆詰め!」



須釜さんとの間合いを一気に詰める。最新版の箒じゃないけれどこれくらいなら実力で可能。
バランスの取れないここじゃワッペンを取るのも不可能に近い。それなら―――――。
「ディセンディウム、降下せよ!」
須釜さんのローブを引っつかみ、箒を投げ出して宙に舞った。
あぁ、悲鳴が聞こえるなぁ・・・・・・・・・。



床にはテーブルとお茶とお菓子があって、椅子もいくつか転がっている。
人はいない。みんなどうやら避難してくれたみたいで。あーよかった、そりゃあ助かった。
須釜さんに逃げられないようにローブをきつく握ったまま杖を構えた。
目標は美味しそうなパウンドケーキ。
「エンゴルジェメント、肥えろ!」
むく。むくむくむくむく。
初めて使った魔法だけどどうやら上手くいったみたいで。
巨大化してモコモコになったパウンドケーキを目指して私と須釜さんは落下していく。
第三ラウンド開始の予感?
とりあえずは素手でっぽいけどね。



パウンドケーキ・・・・・・ごめんなさい、作ってくれた人。美味しいといえば美味しかったよ。
いやまぁ落ちたときについ一口食べちゃったんだけどね。だってあまりにお腹が空いていて。
というわけでボディーを殴られても大丈夫ですからどうそ、須釜さん?
「来ないならこっちから行きますけど」
とりあえずパウンドケーキの上で平手打ちを一つ。
パンッといい音がして須釜さんの頬にもみじの痕が出来る。すごい、漫画みたいだ!
それにしても、ねぇ・・・・・・?
「いまさら女の子だから殴れない、なんて言わないで下さいね?優しくしてもらう機会は他にあるでしょうから」
今はただ単に全力で争いたいんだよね。だってこんな機会はもう二度と来ないだろうし。
須釜さんだけでなく渋沢さんとかとも全力でやりあいたいしなぁ。
苦笑している須釜さんはちょっとだけ困っているように見えた。でもその優しさは今は必要ありません。
つまらないなぁ。やっぱりゲームにも条件と限界があるということか。
・・・・・・そんなことを考えていたら。



パシャッ



液体の零れる音がした。



私に、被害はない。どこも濡れている感じはないし。
でも目の前は何故か真っ暗。目を開いているはずなのに何にも見えなくて。
トクトクと、まるで心臓の鼓動のような音が聞こえている。
温かい体温。背中に回されている腕に、ようやく誰かに抱きしめられているのだと気づいた。
その『誰か』がずり落ちていく向こうで、空のビンを持っている須釜さんが見える。
杖を、構えた。
「ペトリフィカス・トタルス、石になれ!」
呪文がまっすぐに須釜さんを直撃して、動きが硬く止まるのを確認して。
目の前の『誰か』に意識を戻した。
温かい体温はすでにない。今はただ、目の前の光景が信じられなくて。
ボロボロになってしまったパウンドケーキの上に、彼はいた。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お持ち帰りしてもいいですか?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っざけんな、この馬鹿っ!」



須釜さんに「縮み薬」をかけられて、リカちゃん人形のごとくミニチュアになってしまった翼さんがいた。
いやこれはもうお持ち帰りしかないでしょう!よっしゃ!!



何はともあれ須釜さんからワッペンを奪取できたので、これでスリザリンは全滅。
でも翼さんも戦闘不能になってしまったのでリタイア。残るは私、渋沢さん、風祭君、光宏の4人。
「絶対に勝ちなよ、!でないと許さないからね!」
「勝ったら一晩遊ばせてもらえます?」
ミニチュア可愛い翼さんとご飯やお風呂。もちろん同じベッドで寝たりして?
あーでも潰さないという保障もないのでやっぱり一緒に寝るのは止めといたほうがいいのかも。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
真っ赤になっている翼さんはミニチュアになっても可愛かった。
ので、小さくなってもふわふわの髪にキスを一つ。
「全力は尽くしてきますから」
パウンドケーキの欠片も食べれてちょっと満足したことだし。
「助けてくれてありがとうございました、翼さん」
ニッコリ笑って大広間を出た。



ちなみに半壊した大広間の修理代金は須釜さんに請求して下さい。
だって私が勝ったんだからね!





2003年9月1日