052:そのままの君
今まで散々ナンパに付き合わされて六本木からお台場まで連れまわされていると言うのに?
アイツは今更何をどうしろって言いやがるんだよっ!?
「ちゃん、早く準備しないと間に合わないわよ?今日は景吾君との初デートなんでしょー?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・逃げてもいいですかー・・・・・・?
どうしてこんなことになってしまったのか・・・・・・。
考えて、止めた。ものすごく自己嫌悪と恥ずかしさで一杯になってしまった・・・・・・・・・。
だが、まぁ、つまり、とりあえず?
自分で指定した待ち合わせの時間に遅れてくるんじゃねぇよ、跡部景吾っ!
「ねぇねぇ君さぁ、すっげぇ美人じゃん。これからどっか行かない?」
「スイマセン、お断りします」
「あ、あああああああの!あの、これからお茶でもどうですかっ!?本当に少しだけでいいんでっ!」
「・・・・・・・ごめんなさい」
とても慣れたような大学生系のお兄さんを流して、まだ私と同じ中学生だろう普通の男の子の誘いを断って。
あぁ・・・・・・ちくしょう。これならまだ女の子に逆ナンされてる方がまだマシだよ!
男は嫌なんだよ!しつこいし、触ってくるし、次から次へと沸いてきやがるし!
元はと言えば跡部のせいじゃねーかよっ!遅れてくるな、バカ!
「すいません、私、ヴィヴィキャンっていう若い女の子向けの雑誌を担当してるんですけど、読者モデルに興味とかってありませんか?」
「!!!」
女性向け雑誌に初めてスカウトされた・・・・・・っ!!(メンズはめちゃくちゃ体験済みだからな!)
スカウトのお姉さんをどうにか断って(しかし名刺は受け取らされてしまった・・・)、再び人待ち状態に戻る。
つーか跡部。てめぇ一体何分遅刻する気だよ。もうすでに30分は余裕で経ってんだけど?
・・・・・・・・・・・・騙されたのか?騙されたのか、私は!?
ちくしょう!一昨日の夜からママ上に着せ替え人形にされたのも全然意味がなかったてのかよ!
あーもう・・・・・・・・・泣きたい・・・・・・・・・・・。
自然と俯いたら、綺麗にベティキュアを施した爪先が見えた。
・・・・・・なんか、私の足じゃないみたいだ。
紺色のサンダルが見える。ヒールが高くないのは跡部の背が高くないからだ。(私と大して変わらない)
ストレートの細身のデニム。シルバーのビーズで出来てる小さなバッグ。
黒の胸元にレースを使ってるノースリーブのトップ。シルバーのペンダント。
爪がキラキラ輝いてる。中指にいつもの喧嘩用じゃない細い指輪。
顔は自分じゃ見えないけどうっすらとメイクの違和感を覚える。
前髪をちょっと触る。いつもと違う分け目がやっぱり違和感。
全部いまさらのように確認して溜息をついた。
・・・・・・・・・バッカみたいだ。
近づく気配を感じる。
「よぉ、。ずいぶんと早いじゃねぇか」
『おまえ、俺の女になれ』と言った日から、跡部は私を名前で呼ぶようになった。
「ふぅん・・・・・・いつもそんな格好してりゃ男に間違われることはないのによ」
ショートカットだった髪を伸ばそうかと思い始めた。
「ま、俺様の隣に並ぶくらいなら当然だけどな」
一緒にいても他の女の子に声をかけなくなった跡部が本当はすごく嬉しかった。
「ほら、行くぞ。」
私のことをナンパ仲間じゃなくて女の子として扱ってくれるのが照れくさかった。
「おい、聞いてんのか?」
でも、すごく嬉しかった。
あぁ、私ってばまるっきり恋する乙女。
「・・・・・・跡部」
不思議そうな顔でこっちを見た相手にニッコリと笑って。
「100回死んでから出直して来やがれっ!!」
亜久津直伝の右ストレート・標的の身体中央に命中!
よっしゃ!勝った!これで世界へ行ける!ボクシング界からお誘いが来る!
それくらい見事な私のパンチを食らって、跡部はそれは見事に半円を描いて宙を飛んだ。
1・・・2・・・3・・・カーンカーンカーンッ
「勝者・!」
いつの間にか見ていたらしい周囲のギャラリーから歓声が上がった。
I win!
「というわけで、私と跡部は別れたんで」
「あ、ホント?よかった、キヨってば仲間外れにされちゃって寂しかったんだよねー」
「これからもずっと一緒だよ、キヨ」
「ありがと、ちゃん!」
のほほんティータイム。当然のことながら私はジーパンにジャンバー系の至って普通な少年ルックで。
あぁやっぱり私にはこの方が合ってるんだなぁ。めちゃくちゃ楽だよ。
「何言ってんだ、テメェ!俺はまだ別れたつもりはねぇぞ!」
あーうるさいですよ、跡部さん。
「いまさら何言ってんの、跡部君。一時間もちゃんのこと待たせておいて。ねぇ?」
「ねぇ?」
同調して言えばキヨは笑うし跡部は怒るし。
「つーか跡部が悪いんじゃん。これに関しては弁解の使用もないね!」
「あれは・・・・・・っ!」
「「あれは?」」
跡部が黙った。というわけでサヨナラ決定!
「ザケんなっ!、おまえはまだ俺の女だから覚えとけよ!!」
「ごめん、忘れた」
「・・・・・・・・・・っ!!」
跡部は微妙に崩れた顔のまま走り去ってしまった・・・・・・・・・・。
ちょ、ちょっとこれは・・・・・・・・・ものすごく楽しい!
いや、いい!跡部、おまえってすごく面白かったんだな・・・・・・っ!
「あーぁ、跡部君も大変だねぇ」
キヨが苦笑交じりで笑いながら見送って。
「大変って何が」
私の彼氏(自分で言っててかなり違和感が!)であることがか?
「ううん、そうじゃなくって」
ひらひらと手を振ってキヨは言う。
「ちゃんには熱烈なファンがいっぱいいるから跡部君も大変だなぁってコト」
「・・・・・・・・・何それ」
「いやいやちゃんは知らなくてもいいことだから」
めちゃくちゃ楽しそうに笑うキヨ。
その顔がどこか魔王やちょたや杏ちゃんに似て見えたのは気のせいか・・・・・・・・・?
と、とにかく知らないでいいことなら知らないでいよう、うん!
というわけで、やっぱり私は恋する乙女には程遠いようです。
あー良かった!
2003年8月26日