051:気の狂いそうな平凡な日常
「真実はいつも一つ!」
そう言ってリビングに現れた工藤新一に、同居者の服部平次・黒羽快斗・はシンクロのように揃って首を傾げた。
「最初に現状を把握する必要がある」
「俺は新一の頭の中身の方が気になる」
「黙っとき、。こうなった工藤はもう誰にも止められへん」
平次が溜息をつきつつ諭す横で、新一は真剣な顔で口元に指をやり考え込んでいる。
その向こうでは快斗がみんなの専用マグカップにコーヒーを注いでいて。
「冷蔵庫の中にあるべきものがなかった。その所有者である俺にブツを移動させた記憶はないから盗難事件とみていいだろう」
「そんなの隠れてるだけかもじゃん」
「ダイニングは隅から隅まで探した」
暇人、と快斗が呟いたのも新一には聞こえていないようである。
「それで、何を盗まれたんや?」
平次の言葉に新一は一つ間を置いて。
自然と他の三人も息を詰める。
しばらくの間の後、沈痛な面持ちでブツの名が告げられた。
「プリン」
「じゃー俺これから仕事場にこもるんでー」
「俺もバイトで子供たちが待ってるからー」
「ほな俺は夕食当番やから買出しでも行くかー」
「待ちやがれテメェら!」
リビングから出て行こうとする三人を家主の権利で引き止めて。
呆れ半分、いやいや半分でとりあえず新一の話を聞くのであった。
証言1:服部平次
「俺は何もやってへんて。ちゅうか冷蔵庫にプリンなんて入ってたん?俺はそれさえ知らんかったわ。・・・・・・・・・あー何か情報?せやあなぁ・・・・・・あ、そういや昨日の夜に黒羽が『何か甘いものが食べたい』って言うてたで?工藤は家庭教師のバイトやったからおらんかったけど。それ以外には思い当たることもないわ」
証言2:黒羽快斗
「俺?俺は何もしてないけど。・・・・・・・・・・あぁ、昨日?冷凍庫のアイスを食べたよ。チョコレートアーモンドのやつ。プリン?だから食べてないって。あーでも今日の朝に徹夜してきたが何か食べるものを探してたからそれかも。新一は大学の講義が一時間目からだからいなかったけど。俺が知ってるのはそれくらいかなぁ。ちなみに手品で隠してはいないからご安心を?」
証言3:
「プリン?知ってる。あの都内でも開店直後に並ばないと買えない限定30個のやつっしょ?だって冷蔵庫に入ってるの見ていいなーって思ったし。あ、でも食べてはいないよ。今日の朝は結局カップメンを食べて凌いだし、朝から甘いものを食べる気力もなかったし。・・・・・・知ってること?服部がさっき大学から帰ってきたときに冷蔵庫を漁ってたのは見たけど。でもそれだけかも」
こうして堂々巡りを繰り返していく容疑者たち。
カツ丼でも用意すれば取調室と同じようになるだろうリビングで新一は考え込み、その優秀な脳細胞をフル回転させていた。
「まず今朝冷蔵庫を覗いたがプリンの存在を知っていたことから、今朝までプリンは存在していたことは確認できる。同じ日の午後四時に帰宅した服部がプリンの存在を知らないことから、その時間までにプリンは盗まれたと断定してもいい」
「ゴミ箱等にブツの形跡はあったん?」
「いや、なかった」
「・・・・・・・・・なかった?」
平次の信じられないというような呟きに沈痛な面持ちの新一は深く頷いて。
パリン、とクッキーの割られる音が響いた。
「じゃあ外部犯じゃん」
「考えなくても判るね」
はサクッと結論を述べ、快斗はモクモクとクッキーを食べ続ける。
しかしそんなのどかな現&元・犯罪者二人組とは正反対に、現役名探偵二名はその整った顔にシリアスな表情を浮かべて。
「・・・・・・・・・どないするん、工藤。鑑識呼んだ方がえぇんとちゃう?」
「俺たち四人に覚えがないとすると、やはり侵入者しか考えられない・・・。まぁこれは服部と黒羽とが嘘をついていないという前提の元だが」
「ハーイ、先生!工藤君がヒドイこと言ってまーす!」
「おやおやおや、まったくヒドイねぇ。友達甲斐のない男だよ」
そう言いつつもと快斗によってクッキーは着々と減っていって。
結局、平次がスーパーのセールで買ってきたチョコチップクッキーはすべて二人の胃に納まってしまった。
「名探偵・クッキーよりも・事件ラブ」
「残骸はバレないようにひっそりと捨てたか・・・・・・あるいはまだ食していないか・・・・・・」
「ハイ座布団撤収ー」
「外部から簡単に侵入できる奴は限られとるしな・・・・・・俺ら四人か、工藤の両親か・・・」
「快斗、今日の夕飯はなにー?」
「しかしブツは生もの・・・・・・今日中には食べないと例え盗んだとしても無駄になる・・・」
「服部は無理そうだしなぁ。じゃあ簡単にカレー?」
「せやけど工藤の幼馴染っちゅうことも考えられる・・・・・・あぁもう誰なんや、一体・・・」
この思想の違いが彼らの人生の違いにも現れているのかもしれない。
東西名探偵と元怪盗にネットハッカー。
彼らの日常はこんな風に過ぎていく。
「あら。このプリンすごく美味しいじゃない」
「哀君?どうかしたかね?」
「なんでもないわ、博士」
彼らの日常はこんな風に過ぎていってるのだった。
2003年8月7日