043:パンドラの箱





「ご趣味は?」
「時空間旅行を少々・・・・・・」
ちゃんとお見合い風に答えたのに、なぜか目の前の男性は固まってしまわれた。
何か失礼をしてしまいましたか?ねぇ、ロイ・マスタング大佐。



ホークアイ中尉の淹れてくれたコーヒーを飲みながら溜息とかついてみたりしちゃって。
あぁ、うーん、まぁ、ね。とりあえず。
軍服ってストイックでいいなぁ、とか思ったりして。
男性は置いといて、特に女性。ホークアイ中尉とか美人で仕事も出来そうで容赦もなさそうで、ものすごく好みだったりするのだけど。
ミニスカートっていうのは動きにくいだろうし、かえってパンツの方が日常とのギャップが出ていいと思いません?
あーそれにしてもコーヒーが美味しい。美人さんが淹れてくれたと思うとなおのこと良し。
「えー・・・それで君は」
マスタング大佐が額を押さえながら聞いてくる。
、13歳です。ちなみにが苗字で、が名前です。身分証明は学生証で構わないでしょうか?」
「あぁ、一応提出してもらえると助かる」
ローブを探って生徒手帳を探し出す。あ、あった。でもこれって偽造とか調べられないよねぇ。だって別世界のものだし。
錬金術師なんて少なくとも私の知ってる世界にはいなかったよ。あ、でも魔法界にはいたのかも?
ってことは何か。この世界と魔法界はひょっとしたら万分の一の確率で繋がってなくもないのかもしれないということ?
おぉ、それはラッキー!陸続きなら少なくとも歩いて帰れるよ!それと召喚魔法で箒とか取り出せるかもしれないし。
後で試してみようっと。うん、そうしよう。
「13歳か・・・・・・」
「守備範囲外ですか?」
「いや、そんなこともないな」
――――――ハッ!なんか冷ややかな空気がホークアイ中尉の方から流れてくる!
心なしかマスタング大佐の顔色が悪い。うん、この東方司令部の力関係が一発で判ったよ。それはもう道案内の看板よりも判りやすくね。
「あー・・・・・・・つまり、と呼んでも構わないかな?」
「はい、どうぞご遠慮なく」
ホークアイ中尉も是非とも名前で呼んで下さい。むしろお願いいたします。
はこちらの人間ではない、と」
「いえ、まだハッキリと判ったわけではないのですが、私の元いた世界とはあまりに違いが多いので、おそらくそうかと」
「錬金術師は君の世界にはいなかった?」
「いたのかもしれませんが、そんなに有名ではありませんでした。というか軍部自体がありませんでしたし」
まぁ少なくとも日本と魔法界においてだけだけどねぇ。
軍か・・・・・・軍服がこんなに素敵なものだとは思わなかったよ。コスプレ万歳!
「いや、コスプレじゃないし」
ツッコミありがとうございます、マスタング大佐。



やはりこれも日々の日常となりつつありそうなホグワーツの近道で。
金色に光っているブロックも、紫色に光っているブロックも無視して、今度は赤いブロックを突いてみたところ。
あらまぁビックリ☆軍と錬金術師と悪役さんが楽しく明るく暗躍する世界に来てしまいました!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どこだよ、ここ。(『鋼の錬金術師』の世界です)
でもまぁとりあえず?杖も身体も無事だから、そんなに心配するようなことはないみたいだし?
以前みたいに少しゴロゴロと暮らしていれば元の魔法界に戻れるだろう。うん、きっと。
だから、ねぇ。それまでの生活は保障していただけないでしょうか?



「ならば手っ取り早く錬金術師になればいいだろう」
マスタング大佐はサラリと言ってくださった。それはもうアッサリサッパリシャワーのように。
「錬金術師ってそんなに簡単になれるんですか?」
なんとなく信憑性に欠けるのでホークアイ中尉を振り返りながら聞いた。
そうしたら困ったように見つめ返されたし。振り返ってよかった!
マスタング大佐は「ふぅ」とか微妙に疲れたように溜息をついて。
なんだか顔が微妙に役者っぽく作られてるんですけど。素顔な方が断然可愛らしくていいと思いますよ?
もったいないなぁ。確かにカッコイイ男の人はモテるよ?遠くからならね。
でも恋人として持つならばちょっとダメっぽくて、母性本能をくすぐるような男性を選ぶと相場は決まっているのだよ。
甘いな、マスタング大佐。メープルシロップだ。
「錬金術師も生活の保障を受けられる国家錬金術師となると並大抵のことではなれない」
それは遠まわしにご自分を自慢なさっていらっしゃるのですかね、マスタング大佐?
「だが、君には『魔法』とやらがある」
おぉ、そう来ますか。そりゃそうだ。保障がもらえないなら魔法で見世物でもやって生きていこうかと思ってたし。
マグルに魔法を見せてはいけないとかいう法もあるらしいけど、まぁここは治外法権ということで一つ。
「その『魔法』とやらで、ちょちょいのちょいと錬金術に見せかければ良いだけの話だ」
「ひょっとして軍法会議、お好きですか?」
「いや、あまり好きではないな」
マスタング大佐は不思議ちゃんらしい。というか意外や意外に楽しそうな気がし始めてきたし。
若くて実力も地位もあって顔もよくて嫉まれもしていて、だけど人望があるなんて有料物件じゃないか。
帰ったら西園寺先生にご報告しなくては。絶対に『遊べそうな人リスト』に加わることが出来るだろうし。
よかったですね、マスタング大佐。これであなたの人生は決まったも同然ですよ。西園寺先生の手によって。
『焔の錬金術師』として抵抗してもいいけれど・・・・・・・・・。うん、まぁいいけどね。
無理だと思いますよ。だってお相手は西園寺先生ですもの。
「というわけで、今はちょうどいい人間がイーストシティを訪れている。まったく君は運がいいな、
ラッキーですか?うん、でもさすがにラケットの面は当てられないと思いますけど。
「国家錬金術師を受ける前に、自らが『錬金術師』だと周囲に知らしめておけば事は割合とスムーズに進む。そのために打ってつけの人物がいる」
「一応お尋ねしますが、その方はどのような方ですか?」
「三歩歩けばトラブルが舞い込んでくるような子供だ」
「行ってきます」
ものすごく楽しそうな人に出会える予感がしてきたので、いそいそと立ち上がる。
よその世界ならちょっとくらい羽目を外しても怒られないよね?誰にって、もちろん翼さんに。
寮の点数が減点されることも考えなくていいし、しかも何?なんちゃって錬金術師になってもいいの?
それってかなり楽しそうなんだけど。うわ、これで私も女優の仲間入り!?あはは、でもアマチュアだ!
はこの街に来たばかりで右も左もわからないだろう。私が案内して―――」
「大丈夫です、一人で行けますから」
ニッコリ笑って断った。すいません、マスタング大佐。
私はサボリ癖のある上司に悩まされている美しく知的で魅力的なホークアイ中尉の味方なのです!
ニコッと笑って振り向いたら、ホークアイ中尉はほんの少しだけど口元を上げて微笑んでくださった。
よっしゃ!これでこそマスタング大佐を売った価値あり!!
「・・・・・・・・・な、なら後で食事でも・・・・・・・・・・・・」
「はい、喜んで」
傷ついているんだか、遊べなくなって悲しいんだか、打ちひしがれているマスタング大佐の誘いを喜んで受けた。
これで夕飯は確保した。オッケーオッケー!
「では行ってきますね」
「ハボック少尉に送らせるわ」
「ありがとうございます」
ホークアイ中尉にドアとか開けてもらっちゃったりして。うわ、なんて素敵!ビバこの世界!
というわけで早速探してみますか、『鋼の錬金術師、エドワード・エルリック』を。
三歩でトラブル一つか・・・。最近の金利よりも素晴らしい確率だね。
さぁ出ておいで、エドワード・エドリック!
っていうかむしろ鎧で出来ているという弟のアルフォンス・エルリックの方に興味があるんだけどね!!



ル・ル・ルルラララー・ルララ・ルールルー♪
ハボック少尉という煙草をふかしているお兄さんに街を案内してもらいつつ、内心で鼻歌なんか歌ってみたりする。
あっはっは!楽しみで堪らないね!ここんとこ微妙にストレスが溜まってたからとても良い機会だわ!
何でもここの管轄はさっきお会いしたマスタング大佐みたいだし?あぁもうやりたい放題させてもらおうじゃないの!
「あぁ、いたいた。あれが『鋼の錬金術師』」
ハボック少尉の示した先には鎧しか見えなかった。ってことはあの鎧のお方がアルフォンス・エルリック?
だけど兄がいないなぁ。ミニマムなのかな。リカちゃん人形サイズなのかな。まさかそれはないだろう。
「おーい」
ハボック少尉の声にアルフォンス・エルリックらしき人が振り返って。
その向こうに、金色の三つ編みがクルンっと跳ね返るのが見えた。おぉ、なんとなく可愛い子な予感がする。
でもエドワードって名前からして男だろうしなぁ。まぁ男でも翼さんや風祭君のような子もいるし、そっちに期待するか。
鎧がだんだんと近づいてきて、三つ編みと一緒に赤いコートが見えてきて。
ざわざわと揺れる街並み。どことなく浮かれている自分。
・・・・・・・・・今回は楽しい時空間旅行になりそうだ。



というわけで、エドとロイ大佐のおかげで無事になんちゃって錬金術師になれた私は、この世界での青春を謳歌するのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



今回はいつ帰れるのかなぁ。





2003年9月5日