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039:ダブルベッド
「ねぇ、アキノ。物は相談なんだけど」
「何ですか、ルーピン先生?」
「僕と結婚しない?」
「少し考えさせて下さい」
そう言って得た時間は五分間。
そうか、私は五分間で己の人生について決断しなくてはいけないということか。
まぁいいけどね。やっぱり時は金なりということでし。何事もカップラーメンのようにインスタントにこなせれば問題はないでしょう。
それでえーっと、なんだっけ?
「だから、僕と結婚しない?」
「見ても判ると思いますが、私はまだ学生なのですけれど」
闇の魔法に対する防衛術の教室でのんびりとお茶とか頂いてますけれど、着ているのは制服なのです。
ホグワーツの本校に留学中だから卒業にはまだまだ遠いし。
それとも「奥様は女子高生」ってのがやりたいんですか?うわぁ、マニアックな。でも楽しそうだけど。
っていうかホグワーツは高校じゃないから「女子高生」は無理なのか・・・。じゃあ「奥様は魔女」で。
「もちろん正式な届けを出すのは卒業してからでいいよ。ただ、婚約だけでもしたいなぁと思って」
にこやかに笑ってそんなことを言われましても。
「申し訳ありませんがお断りさせてください」
「おや、どうして?これでも職と収入はあるし、土地つきの一軒家も持っている。家事だって全部ちゃんと出来るし、社会の渡り方も知っている。そこそこ良い物件だと思うんだけど?」
「えぇ、たしかに素晴らしい建築家屋だと思います。ですが物事は色々な面から見て判断しませんと」
「まぁ僕はアキノより20歳も年上だし、特別金持ちというわけでもない。・・・・・・・・・おまけに、人狼だしね」
「いや別に狼がどうのとかいうことは気にしてないからいいんですけどね」
むしろ人間の顔して狼な方が困るだろう。「男は狼なのよ、気をつけなさい♪」って歌もあるわけだし。
年齢も全然気にならない。金も持っているに越したことはないけれど、暮らしていくのに必要な分だけ最低限稼げればいいし。
というか私が稼ぐし?
人狼だろうが吸血鬼だろうがゾンビだろうが関係ないんだけど、でもなぁ・・・・・・・・・。
「問題はルーピン先生ではなく、私にあるのです」
「アキノに?」
「はい。私には子供を産む気がまったくもってサラサラのアッサリサッパリ塩味よりも陽炎よりも薄く儚く1ミクロンほどもないのです。だから結婚は無理かと」
「でもそれは『子供を産んでほしい』と僕が願ったときの話だろう?」
「まぁそうですね」
「それなら心配いらないよ。僕もこんな体質だからね、子供を持つことは少し怖くて」
別にたとえ親が人狼だろうと、それが子供に遺伝することはないって学界でも発表されているというのに。
こういうのはやっぱり気持ちの問題なのかなー。
少しだけ寂しそうに笑うルーピン先生を見ながらそう思ったりして。
うん、きっとね、うまくやっていけるとは思うのだよ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しかし、しかしだ。
「つかぬ事をお尋ねしますが、おまけはついてくるのですか?」
たとえば犯罪者として指名手配を受けている黒くて大きなヘタレ犬なんかは。
「シリウス?言えばついてくると思うけど」
ということは別荘の幽霊を合わせても男が三人、生物学上の女は私一人。
「一妻多夫制か・・・・・・」
「万々歳?」
「質によります」
「それはそうだね」
しかしルーピン先生のお宅に四人で暮らせるものなのだろうか。まぁ一人は幽霊、もう一人は犬小屋として。
というかそんな多数で暮らすなら結婚する必要性がないんじゃないか?
うーん、判らない。ルーピン先生の本音が判らない。
――――――――――というわけで。
「すみません。お断りさせて下さい」
ペコリと頭を下げた。
苦笑する気配を感じる。
「やっぱりダメかぁ」
笑うルーピン先生はどことなく年齢よりも幼く見える。
「すみません」
「僕が人狼だから?」
「それは違います。絶対に」
そんなことで人を蔑するような人間じゃないつもりだし。
というか私の方こそ欠陥だらけのブリキのオモチャだし。
「好きな人がいるの?」
「それも違います。私の恋愛感情は怠け者のようで」
働きもせずにゴロゴロと転がっているのです。というか果たしてちゃんとあるのかどうかさえ疑問だったり。
「それは誰にも反応しないってこと?」
苦笑するルーピン先生はどことなく悲しそうで。
どことなくホッとしていたみたいで。
・・・・・・・・・伸ばされた手は、優しい。
「僕にもまだ、望みはあると思ってもいいかい?」
期待を持たせることは出来ないけれど。
この人が抱いているのはそんなんじゃない。もっと、深くて重いもの。
そしてそれは私も持っている。
リーマス・J・ルーピンは、やっぱり私にとって少しだけ特別な人。
「ある、かも、しれませんねぇ」
曖昧に言ったらルーピン先生は笑った。
「なくもないって感じかな?」
「ありえないとも言い切れません」
「うん、はは。それだけで十分だ」
髪を撫でていた手が離れていく。
この手がどんなに優しいか、どんなに臆病か。
それを知っている身としては無碍にもしたくないし、恩のある身としては無碍にも出来ないわけで。
うーん、人生って摩訶不思議ちゃん。右往左往くん?
でもとりあえず、言えるのは。
「魔法界って趣味悪い人ばっかりなんですかねぇ・・・・・・」
郭君とか寮長Sとかドラコとかハリーとか双子とかビルさんとかルシウスさんとかリドるんとかグリフィンドールさんとかサラザール・スリザリンとか。
そう言ったらルーピン先生は大口を開けて笑ってくださった。
まったく、自分もそこに仲間入りをしたことに気づいてるくせにねぇ?
2003年7月19日