038:本能に従え





本当に困る。欲しすぎてしまって。



「そうは思いませんか?牛尾君」
「まったく同感だよ、夜摩狐君」



教室の窓からグラウンドを見下ろして、二人は同じように笑った。



三階からでもすぐに見つけることが出来る。
その茶色の髪と、実はとても整った顔立ちと。
均整の取れた手足に、囁かれれば息を呑む甘い声。
彼を示す要素はとても沢山あるけれど、それでもやはり一番は。
―――――すべてを巻き込む、存在感。



「あぁ、また兎丸君がじゃれついている」
「邪魔ですわね。教育が悪いんじゃありませんの?」
「はは、厳しいね、相変わらず」
「私が厳しいのは猿野君に限ってのことですわ。後はどうとでもお好きになさいまし」



隣にいたら判らないけれど、上から見れば一目で判る。
彼を中心に構成されている世界。
マネージャーと選手と、そのすべての中心に。
彼が、いる。



「夜摩狐君はどうするんだい?」
「私の心配をする暇がおありなら余計な虫を片付けたほうが宜しいのでは?」
「虫を片付けるくらいはすぐに出来るからね」
「ライバルと認めて頂けるなんて光栄ですわ」



お互いに笑みを漏らす。
それはきっと相手に対しての宣戦布告。
引く気はないという、開戦の意志。
絶対に、負けはしない。
目の前の相手に対しても。
グラウンドにいる大勢に対しても。
そして誰よりも一番。



猿野天国に対して。



「・・・・・・・・・負けないよ」
「・・・・・・・・・私だって」



グラウンドから向けられた視線に顔を強張らせて。
そんな自分たちに笑う彼。
細められた目と持ち上げられた口角に。
挑発されているのだと、容易に悟って。
けれど引くことは出来ない。
笑う彼に二人して手を振った。
――――――――――絶対に、負けない。



みていろ、猿野天国。





2003年8月16日