037:見えないもの、見えないはずのもの
実は、私のおばあちゃんは魔女じゃなくて除霊師です。
悪霊さんを見つけたら成敗する・・・・・・じゃなくて、昇天するためのお手伝いをするという。
おばあちゃんは魔法の能力もあったらしいけれど、霊を相手にする方が楽しかったらしくて、ホグワーツには入らずに独学で除霊師になったらしい。
おじいちゃんと結婚した後も仕事は続けていたらしいけど、今は引退して優雅な老後を過ごしている。
この間の休みにはジャパンの恐山っていうところに一緒に旅行に行ったっけ。
うん、でも私はおばあちゃんじゃない。だから除霊師じゃない。
今までだって霊は一度も見たことがなかったし、そういうものを感じることもなかったのに。
それなのに、何で。
それなのに何で、今目の前にいる半透けの男の子が見えるのでしょうか・・・・・・・・・。
透けている男の子の隣にいる、こっちは本物の人間らしい女の子が振り返った。
黒いサラサラの髪に同じ色の目。身長は普通くらいで、でもプロポーションはバランスが取れていてバッチリ。
パッと見で吸い寄せられるような感じがするのは、彼女自身の魅力なのかな・・・・・・?
ホグワーツのローブには緑色の紋章がついていて。
彼女は私の知ってる子だった。
「こんばんは、マリア・クライン嬢」
ホグワーツ日本校からの留学生、・が綺麗に微笑んだ。
今日は、寮の門限になったときになって魔法薬学の教科書を忘れてきたのを思い出して。
どうしようかと悩んだんだけど、明日もし宿題が終わってないなんてことになったら、スネイプ先生に何点減点されることか・・・!
スネイプ先生はグリフィンドールほどではないにしても、私のいるハッフルパフからもどんどんと点を引いていくし・・・・・・。
夜に出歩いているのは見つからなければバレないかもしれない。でも宿題を忘れることは確実にバレる。
その時点で私の行動は決まった。それなのに――――――・・・・・・・・・。
何で、こんなことになってるんだろう・・・・・・・・・。
目の前で微笑んでいるミス・はとても綺麗な笑みを浮かべていて。
アジア系独特の髪と目の色は、彼女にとてもよく似合ってると思う。
外見だけなら彼女よりも綺麗な子はたくさんいるかもしれない。
だけど、ミス・の魅力はそんなものじゃないと思う。彼女には、何か違うものがある。
それが何かって聞かれたら、私にも説明は出来ないんだけど・・・・・・。
でも、彼女の隣にいる存在については説明できると思う。
ホグワーツの制服に身を包んでいても、透けて向こう側が見える。
ミス・と同じ黒髪で、紅い色の瞳をしている、とてもとても端正な顔立ちの男の子。
・・・・・・・・・間違いない。
「こちらは私の友達でリドるん。見たまんま幽霊ね。リドるん、こちらはマリア・クライン嬢。私と同じ年でハッフルパフ」
ミス・は私のことを知ってたんだ・・・・・・・・・。
彼女は(色々な意味で)有名だけど、まさか彼女が私のことを知っていたなんて。
「はじめまして、ミス・マリア」
「は、はじめまして・・・・・・」
ニコッと笑う幽霊はとてもカッコイイのだけれど、やっぱり向こう側の景色が透けて見えた。
ミス・はそんな幽霊の隣で穏やかに微笑んでいる。
「クライン嬢はこんな時間にどうしてここに?」
ココ、というのはホグワーツの使われていない教室。
教科書を取りに行った帰りに、かすかな話し声が聞こえて近寄ってみたんだけど・・・・。
それが、悪かったのかな。
素直にそう言うと、ミス・は首を傾げて笑って。
そんな彼女に私もつい質問してしまった。
「ミス・は・・・・・・」
「って呼んでもらえると嬉しいな。私もマリアって呼んでいい?」
「えっ?うん、もちろん」
(しつこいけど色々な意味で)有名なミス・・・・・・・じゃなくて、とファーストネームで呼び合う日が来るなんて!
同じ寮の男の子に話したらすごく羨ましがられるね、きっと。男の子だけじゃなくて女の子にも。
はそれほど人気がある。スリザリンだから最初は敬遠してたんだけど、今じゃホグワーツのヒーロー・・・じゃなくてヒロインだし。
「・・・・・・は、どうしてここに?」
ニコッと彼女は嬉しそうに笑った。
「それは――――――」
「野暮だね、ミス・マリア。若い男女が夜中に二人で逢っているとしたら導かれる答えは一つだと思わないかい?」
「生身の人間ならともかく幽霊とランデブーする趣味はないので、まぁ友達との語り合いをしに」
幽霊は艶やかな笑みを浮かべて、はやっぱり先程と変わらない笑顔のままで。
・・・・・・・・・たぶん、の方が正しいのかな?
どことなく似た雰囲気の二人はお互いの台詞にも楽しそうに笑った。
「ひどいな、。僕はいつでものことを愛しているのに」
「それはありがとう、リドるん」
「お礼よりも同じくらいの愛を返して欲しいな」
「ごめん、それは無理」
サクサクっと進んでいく会話。
本当に、ファンの人たちが見たら闇討ちされかねない会話な気がする・・・・・・。
と同じスリザリンのドラコ・マルフォイとか、グリフィンドールの英雄・ハリー・ポッターとか。
こう考えてみると、実はってすごい人たちにも好かれてるかも・・・・・・。
目の前の、幽霊も含めて。
「じゃあ今日はもう帰るから。またね、リドるん」
「え!?あ、私のことなら気にしないで・・・・・・」
の言葉に幽霊が一瞬切なそうな顔をするから、思わず言ってしまった。
そうしたら幽霊がとても嬉しそうな顔で笑うし。
「ミス・マリアはいい人だね」
「え」
「でも折角だけど、僕はの下僕だからの言うことをきかないわけにはいかないんだ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・下僕?って、屋敷僕みたいな?
まさか、こんなカッコイイ人が下僕?あぁでもカッコよくても幽霊は幽霊だし。
それにに下僕がいるのは何て言うか似合うかな、なんて思っちゃったわけだし。
私が混乱している最中にも幽霊は甘い微笑を浮かべてへと向き直っていて。
「じゃあまた明日、」
「お休み、リドるん」
「お休み。良い夢を」
ほっぺに、キスを。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ、本当にドラコ・マルフォイやハリー・ポッターの怒る声が聞こえそう・・・・・・。
真っ暗なホグワーツの廊下を二人して小さな声で話をしながら歩く。
私はいいって言ったんだけど、がハッフルパフの寮まで送ってくれるというので。
「可愛い女の子を危険な目には遭わせたくないから」
なんて言うの方が可愛くて、でも頼もしくて、私はじゃあとお願いした。
はとても話し上手で、本当なら真っ暗で怖いはずの廊下は全然怖くなかった。
ハッフルパフ寮への入り口である肖像画を前に、私はもう一度お礼を言う。
「送ってくれてありがとう、」
「どういたしまして。私こそマリアみたいな美少女と話せて楽しかったし」
「ふふ、なぁにそれ」
名残惜しいけれど、仲良くなれたから明日もまた話が出来るだろうし。
楽しくなりそうな日常に嬉しくて笑った。
「それじゃ、お休みなさい、」
「お休み、マリア」
手を振って合言葉を唱えると、少し眠そうだった婦人はあくびをしながら入り口を作ってくれて。
門限は破っちゃったけど教科書を取りに行ってよかった。素敵な人とも知り合えたし。
「マリア」
新しい友達の呼ぶ声に、私は振り向いた。
「――――――リア、マリア!」
「・・・・・・んー・・・・・・?」
「早く起きないと遅刻よ!魔法薬学の宿題もまだやってないんでしょ!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!!」
ガバッと飛び起きた。ベッドの横にはルームメイトのジョディの呆れた顔。
「まったくもう。昨日は昨日で教科書を取りに行って帰ってきたと思ったらすぐに寝ちゃうし!フィルチには見つからなかったんでしょうね?」
「えーっと・・・・・・・・・」
まだ眠り足りないのか、ぼんやりとしている頭で考える。
そう、昨日はたしか忘れてきてしまった魔法薬学の教科書を取りに行って、真っ暗で怖かったけどフィルチにもミセス・ノリスにも見つからずに帰ってくることが出来て。
今思うと奇跡みたい・・・・・・。
「っていうか宿題!」
「もう諦めたら?魔法薬学の授業は一時間目よ」
「・・・・・・・・・せっかく取りに行ったのに」
見せて、とジョディに言ったら『スネイプ先生はそういうのもチェックするから無理』と断られてしまったし。
これは大人しく減点されるしかないのかな・・・・・・・・・。
泣きそうになりながら、魔法薬学の教科書を開いた、ら。
「・・・・・・・・・どうしたのよ、マリア」
呆然としている私の後ろからジョディが覗き込んでいる。
私の手の中には魔法薬学の教科書。今日の授業で提出しなくちゃいけない宿題のページ。
そこには一枚の羊皮紙が挟んであった。
流暢な筆記体で、おそらく正解と思われる回答が書き込まれている羊皮紙が。
「何だ、やってあるんじゃない」
ジョディが言うけれど、この字は私じゃない。私、こんなに上手くないし。
しかも難しいので評判の魔法薬学で全問正解なんて出来るわけないじゃない!
こんなこと出来るのは才媛で有名なグリフィンドールのミス・グレンジャーとか、留学生で魔法薬学主席のミス・ぐらいよ。
「ほら、早く準備して。朝ご飯に遅れるわよ!」
ジョディに急かされて慌ててネグリジェを脱いで制服に着替えた。
頭の中ではハテナマークを飛ばしながら。
「おはよう、マリア」
走って行った大広間でミス・にファーストネームで挨拶されて、私のハテナマークはさらに増えるのだった。
2003年9月28日