036:わたがし





最近、同じクラスの日吉は三年生の先輩に猛烈アタックをされている・・・・・・。



「はい、日吉若。アーン?」
「・・・・・・いい加減に止めてくれませんか」
「美味しいのにー。今日のカラアゲは下味も完璧につけたから美味しいのにー!」
「美味しかろうが不味かろうが関係ありません」
「でもどうせ食べるなら美味しいほうがいいじゃない?それとも日吉若の味覚は青学の不二周助並みに変なの?」
「あんなゲテモノ食いと一緒にしないで下さい」
「あーじゃあ甘いものが大好きで、主食もケーキがいいとか?ごめんね、知らなかった!今からケーキ買ってくるからちょっと待っててね!!」
「誰がそんなこと言いましたか」
「えっと、とりあえず近場だと・・・・・あぁもう面倒くさいからいいや!・・・・・・・・・あ、もしもし私だけど、今すぐケーキ持ってきて!うん、何でもいいから。とりあえずそうね・・・・・・高島屋と松坂屋と三越のテパ地下のを全種類!今すぐね!最初のケーキが10分以内に届かなかったら今日の夜は厨房と玄関で特別仕様するから!!」
「・・・・・・・・・アンタ、ちょっと待て」
「うん、オッケーオッケー!あはは、やっぱり優秀だなぁ、うちの人材は!大丈夫、もちろんそれなりのお礼はするからね。期待してていいよー」
「おい」
「じゃあ待ってるから。ありがとー!」



プチッと携帯電話を切った。
黒髪を揺らして満足そうに微笑む、その綺麗な先輩は名前をさんという。
あの泣く子も黙る氷帝テニス部部長・跡部景吾先輩の幼馴染で、でもって最強の親友らしくて。
そうでなくても美貌・頭脳・運動神経・家柄・人格とすべてに五つ星がついているという素晴らしい人!
一介の生徒である俺にとっては雲の上の上の上のむしろ楽園にいるんじゃないかっていう存在。
まぁ日吉とか鳳とか樺地からしてみれば、部活の先輩の友達ってことで近しい存在かもしれないけどさ・・・・・・。
普通の一般生徒にとっては、跡部先輩と先輩は並んで高嶺の花なのだ。
そんな有名人をこんなに間近で見られるなんて。



日吉、ありがとう!!(そして羨ましいんだよ、ちくしょうっ!!!)



「これでオッケー!あと10分も待てばケーキは届くから心配しなくていいよー」
「アンタ、馬鹿か」
「日吉若に関してはバカかもね?だってこんなに愛しちゃってるもん」
「そういう風に言ってるから本気で受け取られないんですよ」
「誰に?日吉若に?そんなこと言ってると本気で言うよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「口を滑らせたね。まだまだ教育が必要だなぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あ、ちなみにそんなに心配しなくてもいいからね?跡部と違って日吉若には体罰はしないつもりだから!」
「・・・・・・・・・体罰って」
「えーやだー恥ずかしくって言えなーい!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「なんてのは嘘でー」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ちょっと二度とそんな行いをしないように身体に覚えさせてあげるだけだし、そんなに怖いことじゃないでしょ?テニスも練習を繰り返して上手くなるんだから、それと一緒!」
「・・・・・・・・・・・・・・どこが一緒だ」
「すべて一緒ー」



・・・・・・・・・強い。
あの無愛想・偏屈・頑固の代名詞みたいな日吉が押されてる。
さすが、先輩!



「さて、日吉若」
「・・・・・・・・・何ですか」
「これから後7分でケーキが来ます」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
家を甘く見ないでね?ものすごく機動力の高い優秀な人材が揃ってるんだから。ちなみにケーキ代は株で稼いだ私のポケットマネーから出されます」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「一つの店にケーキが10種類として、一つのデパートにケーキ屋が7件、それが三つのデパートで合計すると?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「210個。これを日吉若一人で全部食べきれるのかしら」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アンタが勝手に用意したんだろ」
「まぁね。で?食べるの?食べないの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「今ならカラアゲを一つ、私の持っている箸から食べるだけで210個のケーキから逃げることが出来ます」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ちなみに来たケーキは全部食べてもらうからね?それに『出された料理を残してはいけません』ってお母様とお婆様に教わってるでしょー?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「さ・て・と?届いたケーキをまるで食い放題選手権のように、むしろ蓋をするタイミングを逃していつまでも食べ続けなきゃいけない椀子蕎麦のように次々と食べて、でもって体重は今の二倍に、カロリーもめちゃくちゃオーバーして糖分の取りすぎで成人病とかになって、今のスリムな体型も見る影もないポッチャリさんになって跡部を下克上どころか正レギュラーたちに指差された爆笑されて、それでもなお頬に出来るニキビと格闘し続けるのと」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「『はい、日吉若。アーン?』『あーん』『美味しい?』『あぁ、は料理が上手だな。よいお嫁さんになるよ』『本当!?嬉しいっ!』『みたいな人が奥さんだったら幸せだなぁ』『やだもう、日吉若ったら!』っていう時間にして一分にも満たないであろう束の間カップル劇場を繰り広げるのと」
「―――――――――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「どっちが、いい?」



本当に10分以内に最初のケーキが届けられ、そして続々と到着してくるケーキを食べながらクラスメイトの俺たちは思う。
幸せそうに日吉にお弁当を食べさせている先輩を見やって。



あぁ、本当に最高の先輩だと。



生贄に日吉を捧げながら、俺たちは「いつも日吉若がお世話になってるから」と振舞われたケーキに舌鼓を打って。
今日も幸せそうな先輩と最高に屈辱そうな顔をしている日吉を見ながら、昼休みを過ごすのだった。



・・・・・・・・・頑張れ、日吉。





2003年8月6日