034:平行線
「麻衣子ちゃん」
呼ばれた声に振り向いた。そこにはグレーのブレザーを着た幼馴染の姿。
「久しぶり。元気だった?」
「えぇ。も元気そうですわね」
「うん」
並んで歩き出すと判る。中学生のときは自分の方が高かったのに、今はの影の方がいくらか長く伸びていて。
隣を見ればいままでは横顔が見えていたのに、今は肩口が見えるだけ。
顔を見るには見上げなくてはいけなくなった。
眼鏡をかけた顔。初めて見るフレームに、会っていなかった長さを思い返した。
隣に住んでいるのに、学校が違ってしまうと本当に会う機会は少なくなる。
「高校はどう?女子校って楽しい?」
「えぇ、まぁまぁですわ」
「部活は入った?」
「サッカー部に入りましたわ。あんまり強くはないのだけれど」
「楽しいのが一番だからね。よかったね、サッカー部があって」
「・・・・・・えぇ」
中学に入ってから成り行きで始めたサッカーに自分がわりとのめり込んでいたことを、この幼馴染はよく知っている。
だって、ずっと隣にいたのだから。
「の方はどうですの?美術部と文芸部で迷っていたのでしょう?」
「うん、結局は文芸部にしたんだ。氷帝の文芸部の顧問の先生はすごくコメントが上手で、鍛えて頂けると思ったから」
「そうなんですの」
「本当は美術部も捨てがたかったんだけどね」
苦笑する横顔が夕日に照らされて赤く染まる。
背が高くなった。こんなにたくましい雰囲気をしてた?
髪型が少し変わった。黒髪であることは変わっていないのだけど、受ける印象が少し変わった。
並んで歩く。幼稚園に通っていたころから何度こうしてきたことか。
でも今は。
今、は。
手を伸ばしたら届く?
この気持ちは、君へ届く?
・・・・・・・・・ねぇ。
幼馴染から抜け出したいと言ったら、どうする―――――・・・・・・?
「麻衣子ちゃん」
変わらない笑顔と、変わらない呼び名。
まっすぐに見ることが出来なくてうつむいた。
「帰ろう」
伸ばされた手は骨ばった男の人になりかけのもので。
胸が熱くなって、息を潜める。
どうしようと迷った挙句にその手に触れれば、優しく、けれど力強く握りこまれた。
顔は、あげられない。
引かれるようにして家路を歩く。
昔は逆だったのに。
「・・・・・・・・・」
「何、麻衣子ちゃん」
繋がってる手に力を込めて。
こんな顔は見せられなくてうつむいてしまうけれど。
溢れる気持ちが抑えきれない。
「私――――・・・・・・」
夕暮れの街角、幼馴染が二人。
新たな関係を築きたくて。
どうかこの想いが、君と交わりますように。
2003年9月14日