027:きみのてのひらにキス





この手に触れるのを許したのは、誰でもないあなただけ。



「猿野さん」
「あぁ、凪さん」
「今お帰りですか?」
「そうっす。ちょっと呼び出し食らってまして」
「女の子に?それとも職員室に?」
「さぁ、どっちでしょうねぇ」



他愛もない会話を交わして。
当然のように隣に並んで歩き出す。
右側は彼の親友のための場所。
左は、私。



心臓に程近い位置に、私。



この手に触れてもいいのは、誰でもないあなただけ。



「・・・・・・音楽の、茅島先生でしたか」
「あぁ、やっぱご存知だったんすね」
「外資系に勤めている男性と婚約したばかりなのに、結構なことですね」
「定番ですけど、恋愛は自由なんじゃないすか?」
「それこそ定番ですが、勇気と無謀は違うと思いません?」
「そりゃそうだ」



明るく笑う顔。
楽しく哂う顔。
その横顔に見とれてしまう。



他者を侮蔑して嗤う、彼の顔に。



そして自分をも見下して嘲う、彼に。



・・・・・・・・・・見惚れてしまう。



「そんなに見とれるほどカッコイイですか、俺は?」
「―――――えぇ、それはとても」
「凪さんもお綺麗ですよ」
「ふふ、ありがとうございます」



傀儡のような会話を交わして。
二人して同じ笑顔を浮かべて。
差し出された手に、自分の手を重ねる。
さぁ、この手に口付けを。



この手に触れることが出来るのは、誰でもないあなただけなのだから。





2003年7月15日