026:流れる糸





「・・・・・・どうかしたのか?」
そう言って話しかけてきた少年に、は戸惑ったように顔を上げた。



人通りの多いが街道では周囲を見渡しながら走っていた。
その顔には常と違い表情が浮かんでいて。
けれどそれは決して喜ばしいものではなく、むしろの不安だけを表している。
いつもその手に抱かれているぬいぐるみがいない。
いつもその身体を抱き上げてくれる青年がいない。
どちらを探しているのかは判らないけれど、それでも必死で求めている。



そんなに声をかけた少年が一人。
金色の髪と茶色の瞳。人形のように綺麗な顔立ち。
彼は己を、クラピカと名乗った。



「先ほどからこのあたりを行ったり来たりしていただろう?誰か探しているのか?」
目立つ淡い銀色の、人形のような少女。
作り物のような容姿をした二人が一緒にいることはあまりに自然で、そこだけ時が止まったかのよう。
視線を合わせるように膝をついて柔らかい笑みを浮かべた少年に、は少しだけ迷ってから指を動かした。



ぬいぐるみを探してるの



「ぬいぐるみ?」
聞き返すと少女は頷く。



ちゃいろで、ふわふわで、くま



「そうか、判った」
安心させるように笑って、右手を取り出す。
ジャラリとあるはずのない鎖が音を立てて。
「“導く薬指の鎖”(ダウジングチェーン)」
目を閉じて探す少年を、はじっと見つめていた。



頭に優しく載せられる手。
「悪いが私は用があるので一緒には行けない。気をつけて行くんだよ」
コクリと頷く。



ありがとう



つづられた文字にクラピカは微笑んで。
そしてもう一度その銀の髪を撫でた。
「どういたしまして、お姫様」
優しい笑顔にもつられて微笑んだ。



こうして一時の邂逅は果たされてしまった。
駆け出す少女と見送る少年。



しかしクラピカは知らない。
自分がこのとき、少女に願うべきだったのだと。
除念の力を持つに、それをある人物に使わないよう頼むべきだったことを。



がこの数分後、別の通りで自分の敵に会ってしまうことを。



大きな過ちを犯してしまったことにクラピカは後になって気づく。
傷を背負った少年と少女が再会するのはまだまだ先のことだった。





2003年7月16日