024:万有引力
はひどく攻撃的な気持ちで目の前の男を睨み付けた。
手の中のラケットが何かの凶器になったような錯覚。
今ならきっと素晴らしいテニスが出来る。
この男、どう甚振ってくれようか。
「うっわ、今日はずいぶん荒れてたじゃん。アイツかわいそー」
圧倒的なゲーム運びで試合を終えたけれども、未だをとりまく剣呑な雰囲気は衰えていなくて。
そんな中、切原赤也はしごく当たり前のように近づいて声をかけた。
ギロリと鋭い眼差しで睨まれても肩をすくめることさえしやしない。
「別に。ちょっとムカついただけ」
「アレでちょっと?」
「じゃあかなり」
言い直した分だけ内容に容赦がなくなっていて、赤也はとても楽しそうに笑う。
口元に手を当ててはいるけれど、それは他者を見下す侮蔑のこもった嘲笑だった。
はコートの片隅で未だショックから立ち直れずにいるさっきまでの相手選手を見やって哂う。
「俺にテニスで勝てると思ってたなら正真正銘のバカだな」
「ホント。救いようもない」
「あれで本当にテニス部員なのか?信じらんねー」
「どうせ形だけじゃん?」
二人の唇が同じように弧を描いて。
「テニスやってるって言えないよなぁ、あんなプレーじゃ」
見とれてしまうほど凄艶に、その二人は見下して哂った。
傷心の相手をさらに追い詰めて、けれどそれを楽しむかのように哂う。
傷つくだろうことは判っているのだけれど、だから何、と思うのだ。
ひどく傲慢で横柄、限りなく子供じみた意地悪な心。
けれど彼らが持つのは、それに不釣合いなほどの殺傷能力。
言葉はナイフにとなって、実力は相手の心臓を抉る。
そして噴出す血を見て二人は哂うのだ。
けれどそんな彼らに人は魅かれる。
痛いほどの煌めきを放つ人間に、人は引き寄せられてしまうのだから。
2003年7月23日