021:今日と明日との狭間





少女が10歳になったとき、青年は20歳になっていました。



目の前に座って本を読んでいる少女を眺めながら向日岳人は考える。
・・・・・・・・・やっぱ、まだダメだよなぁ、と。
ローテーブルの反対側で小さな文庫本(と言っても児童向の内容だが)を読んでいる少女。
その手足は少女期独特の折れそうな細さで、岳人の手なら軽く握り込めそうだ。
文字を追っている俯きがちの顔。黒髪が肩について少しだけクルンと跳ねている。
それでも艶やかで、加工など全くしていないのにサラサラの黒髪。
この髪がいつか茶色に染まったりなんかしたら自分は泣くかもしれない、なんて岳人は思う。
染めたりするよりもこのままの方が綺麗なんだから、もし少女が染髪したいと言い出したら全力で止めにかかろう。
黒髪も白い肌も、このままで十分美しいのだから。
そう、何もかもが今のままで十分。
「・・・・・・・・・岳人お兄ちゃん?」
――――――甘い声も首を傾げる仕草も十分。
今でさえ十分、岳人を誘って止まないのだから。



岳人は内心で思わず頭を抱えたくなった。・・・実際にそうしたら目の前の少女に余計な心配をかけてしまうのでしなかったのだが。
落ち着け、自分。大丈夫、まだ大丈夫だ。
今まで何度も言い聞かせてきた言葉を今回もまた自分へと投げ掛ける。
だけどドクドクと波打つ心臓が止らない。
身体の奥底から沸き上がってくる、強烈で燃え上がるような熱も。
・・・・・・・・・そう、そうなのである。
向日岳人は今自分の目の前にいる10も離れた小学生の少女に、欲情を覚えて仕方なかったのだ。



「・・・・・・・・・
「ん?」
「ちょっと来てみそ」
手招きをすれば立ち上がってこちらへと近づいてくる少女に内心で苦笑して。
自分の足の間へと大人しく座らせた。
─────小さな少女。
自分を見上げてくる大きな瞳。
その下、シャツの間から見える薄い鎖骨。
まだ成熟には程遠い幼い身体。
それなのに。
それなのに。
「・・・・・・岳人お兄ちゃん?」
──────────何でそんな甘い声で名を呼ぶのだろうか。



無意識のうちに岳人はへと口付けていた。
小さな唇にそっと触れて、驚いたように反応するからもう一度軽くキスをする。
目を閉じた雰囲気を感じながら何度も唇を合わせて、その甘い感触を楽しんだ。
─────気持ち良さに、箍が外れる。



が息を吸うのと同時に舌をその唇へと差し入れた。
ビクッと反応する体を抱きしめて、そっと舌で口内を嘗め回す。
脅えたように引いている舌を絡め捕って、吸い上げて。
甘いな、と岳人は思う。
・・・・・・・・・気持ちいい。



気持ち悦い。



このままを自分のものにしてしまいたいな、と岳人は思う。
でもダメだ。目の前の少女はまだ10歳になったばかりなのだから。
こんな幼い内からセックスしても快感を得ることは出来ないだろう。
そんな、痛みだけを伴うセックスなんてしたくない。
一生一緒にいたいから。
を大切にしたいから。



大きくなってもずっと、自分を一番好きでいてほしいから。・・・・・・・・・・・だから。



唇を離すと真っ赤に頬を染めた少女が腕の中にいて。
とろけたような瞳で岳人を見上げ、けれど一瞬後には我に返って岳人の視線から逃げるように胸に顔を埋める。
そんな可愛らしい仕草も、今の岳人にとっては少し辛いものでしかないのだけれども。
とりあえず、その頭を優しくなでて。



もうしばらくはこのままの関係かな、なんて岳人は思うのだった。





2003年7月17日