020:耳を欹てて
「ねぇ、跡部君。あの子可愛くない?」
肩を叩かれて振り向けば、千石の視線の先にはセミロングの女が見える。
年は俺と同じか少し下だな。スラッとしたスタイルに美少女顔。
まぁ悪くない。むしろイイ方と言ってもいいだろう。
――――――だが。
「あれはどう見たってオトコ待ちだろ」
「やっぱ?あんな可愛い子の彼氏ってどんな奴だろうねぇ」
「さぁな。意外とさえないオトコだったりすんじゃねぇの」
そんなことを言いながら俺と千石は周囲を適当に見回していた。
ちなみにここはオープンカフェの一席。
容姿のいい奴が優先して通されるココには俺たちはもちろん、例の女も通されていた。
オレンジジュースのグラスを前に道行く人間を眺めている。
・・・・・・・・・気が強そうな女だな。
「あの子の待ち合わせ相手を見たら移動しよっか」
楽しそうな顔で千石が笑った。
くだらねぇと思ったが、あの女が選ぶ相手に少しの興味を覚えた俺は黙ったままにしておいた。
待つこと7分24秒。
「ごめん、有希!遅くなった」
現れたのは至って平凡、あらゆる意味で普通に属するオトコだった。
黒髪、黒目。身長は170センチくらい。
スポーツをしてるらしい身体は程よく筋肉がついている。
白がベースのジャージ上下。KANTO・・・・・・関東選抜?少なくともテニスじゃねぇな。
大きなスポーツブランドの鞄を肩から提げている。
とにかくソイツは普通の男だった。顔は悪くない。でも特別よくもない。
ハッキリ言って地味。
あの女も何でこんな男と付き合ってんだか。趣味悪ぃ。
「お帰りなさい、」
女―――――有希とか呼ばれてたな。ソイツが笑みを浮かべて言う。
その顔だけで、どれだけ男―――――に惚れているかが判る。まったく勿体ねぇ。
「ただいま。あ、これお土産」
「・・・・・・・・・本当に買ってきてくれたの?」
「当然だろ?有希は勝利だけでいいって言ってくれたけど、俺が有希に何か買いたかったから」
千石が微妙に絶句した。(ちなみに女も絶句してた)
「あ、跡部君・・・・・・」
「何だよ」
「アイツさ・・・今、ものすごくサラッと言ったねぇ・・・・・・。聞き流すところだったよ」
「・・・・・・あぁ」
アイツのあまりの自然さに俺も内心で千石と同じことを考えた。
地味な奴ほどあぁいう台詞を吐くものなのか?
お土産はどうやら烏龍茶だったらしい。それと水晶がついた携帯ストラップのようなもの。
女はそれを嬉しそうに受け取って、それを見てとやらも嬉しそうに笑う。
・・・・・・・・・・何か見てるのも馬鹿らしくなってきた気がする。
「試合はどうだったの?」
「2−1で勝ったよ。でもやっぱ北京選抜は強かったな。何より身長が高い選手が多いから空中戦じゃほぼ負けるし」
「それでも勝ったのよね」
「どうにか。背の高い相手には飛ばせないことが第一だし、もう必死で押さえたよ」
「怪我とかしなかった?」
「痣はめちゃくちゃ作った」
「やだ、大丈夫なの?」
心配そうに問いかける女と、大丈夫だと言って笑う男。
外見的に不釣合いだと思わせる組み合わせなのに、何故だかその様子はひどく自然だった。
千石がポツリと呟く。
「・・・・・・・・・・なんかいいねぇ」
ほのぼの。
そんな言葉が相応しい二人だと思った。
思いっきり美少女と、サッカーの腕前だけは良いらしい顔は普通の男。
外見的には不釣合いなのに、何故だかこいつらはとても似合って見える。
何だ?男の性格が原因なのか?
「明日はクラブも選抜の練習も休みだから、どこか行こうか」
「え、でもは疲れてるでしょ。休んだ方がいいんじゃない?」
「俺なら平気。試合には勝てたし有希には会えたし、気分がいいんだ」
男がニコッと笑う。女が顔を真っ赤にする。
こいつらは・・・・・・・・・!
「・・・・・・・・・ひょっとしなくても、美少女ちゃんの方が惚れ込んじゃってる?」
千石がものすごく意外そうな顔をしてやがる。
「・・・・・・男の方は無意識だろうな」
あんな台詞照れもせずに言いやがって。
普通の男だと思ってたらとんでもねぇ。アイツ、口だけで1ホストにもなれるぜ。
ただ無意識で言ってるところがポイントだけどな。全部計算ずくとは思えねぇあの流れ。
「・・・・・・・・・おっそろしいねぇ・・・」
千石が苦笑した。
世の中、美少女とくっつくのは美少年だって相場は決まってんだろ?
つーかそうなんだよ!少なくとも俺は自他共に認めるようなイイ女以外とは付き合わねぇ。
なのに何だ、あいつらは。
外見的に不釣合いなことが問題なんじゃねぇ。
外見的に不釣合いなのに似合ってるってことが問題なんだよ!
「有希」
「な、何?」
「明日、一緒に出かけよう?」
男はやっぱり笑って言った。
「俺は有希と一緒にいたいからさ」
支払いはどうやら割り勘のようで、店から二人がさっさと出て行く。
スポーツバックを提げた後ろ姿と、まだ耳の赤い後ろ姿と。
机に突っ伏している千石も、何故だか顔を赤くしている。
俺は大きく溜息をついた。
千石が情けない声で呟く。
「・・・・・・・・・キヨ、もぉ完敗・・・・・・」
「――――――まったくだ」
2003年9月20日