017:朝焼け





24時間営業のコンビニエンスストアだけが店を開いている時間。
目立つ白い学ランの生徒が自動ドアを開けて入って来たのを見て店員は顔をしかめた。
新聞配達員くらいしか出歩かないであろう時間に、何でまた。
けれどそんな考えは数分後に破られた。
ミネラルウォーターのペットボトルと、チョコレート味の簡易食品をレジに置いた指。
男にしては細いその指に納まっていた、銀色の指輪。
太めに作られたそれの、中央にある楕円の型に美しく彫られた紋章。
細かすぎて決して模倣することは出来ないと言われているその指輪には、美しい花が一輪描かれていて。
この意味を知らないものはいない。
少なくとも、この東京においては。
店員はゴクリと唾を飲んだ。



黒い髪。
シルバーフレームの眼鏡。
理知的な整った顔。
スラリと伸びた肢体。
清廉とした雰囲気と醸し出される静かな威圧感。
知らず、息を呑んで。
これに白の学ランとくれば想像は一気に確信に変わる。



震える手でお釣りを手渡して、去り行く横顔を見つめながらハッとして頭を下げた。
「ごっ・・・・・・・・・・ご、ご苦労様です・・・・・・っ!」
下を向いていたけれど、振り向いた気配に少しだけ視線を上げた。
シルバーフレームの奥の瞳が優しく細められたのが見えて。
その美しさに、心臓が高鳴る。
「・・・・・・・・・あなたも、ご苦労様」
それだけ言うと彼はもう振り向かずに自動ドアをすり抜けて朝焼けの街へと出て行った。
残されたのは、己が高校の属している組織の長に会った男だけで。
夢でも見ていたのかもしれない、と何度も首を傾げた。



「あ、もしもし太一?俺だけど」
うっすらと闇の薄くなってきた街を歩きながら携帯に話しかける。
「あぁ、俺は平気。ちょっと事後処理に時間がかかっただけだから」
ペットボトルの蓋を器用に片手で開けて、一口飲み込む。
「大丈夫、全員始末したし今日中には相手校に謝罪に行かせるから。・・・あぁ、そうだな。その方がいい」
オレンジ色のパッケージを開けて、チョコレート味の食品を口に運んで。
「後で橘にメールを打っといてくれ。俺はこれから帰るから――――・・・・・・・・・」
言いかけてふと、その言葉を止めた。
「・・・・・・・・・悪い、太一。もう少し帰るのが遅れそうだ。作ってくれた夕飯は必ず食べるからそのままにしておいて」
シルバーフレームの眼鏡を外して、喧騒の方へと足を向ける。
「いいって、オマエは学校に行けよ。俺のことは心配しないでいいから」
鈍い音と金属の音に眉をひそめて。
「・・・・・・わかったわかった。待ってていいから。あぁ、すぐに終わらせて帰るよ」
薄暗い路地を前に、足を止めた。
「じゃあ太一、またな」
通話ボタンを押して電波を切る。
そのかすかな電子音に気づいて振り返った男と、その向こうに見える多人の加害者と少数の被害者に目を留めて。
流れる赤に不愉快そうに顔を歪めた。
手をゆっくりと持ち上げる。
朝日を浴びてシルバーが光る。



意味を、悟れ。



「俺の名は。第15代『山吹の覇者』の冠において、おまえらを断ずる」



慈悲など欠片もない無表情な顔で、制裁を。
夜明けはすぐそこまで来ていた。





2003年7月21日