016:心音





初めてなわけじゃないけれど。
でもそのとき以上にバクバクと高鳴っている心臓。
触れた箇所から痺れるような感覚が全身を伝う。
濃厚なキス。それはあたかも総てを貪るような。
そんな、口付け。



離れる唇が糸を引いて。
子津忠之介はそれを追いかけるようにもう一度キスをした。



今頃になって顔を真っ赤にする子津に猿野天国は楽しそうに笑う。
部室の床へとしゃがみこんでしまっている彼に合わせて、自分も座り込んで。
「どーよ、俺のテク。巧かっただろ?」
両手を顔に当てているために表情の見えない相手を笑った。
肘をついた手に顎を乗せて、それはそれは楽しそうに。
ほんの少しだけ、微笑ましさを混ぜて。
「でもオマエも中々やるじゃん?初めてじゃないだろ」
無反応なのはきっと反応できないからで、そんな彼の様子が手に取るように判って。
あぁ、本当に微笑ましい。
つい先程まで重ねていた唇を撫でて、天国は小さく笑った。



心臓が音を立てている。
いつもより早い、いつもより速い。
手の平を握りしめて天国が笑う。
真剣な眼差しで子津が顔を上げる。
視線が合う。
手を、伸ばす。
――――――――――強い抱擁。



・・・・・・・・・心の音が聞こえる。



君を好きになってもいいですか
呟いた言葉は互いの唇に遮られて聞こえなかった。



恋の音が聞こえる。





2003年8月6日