014:あなたのいなくなった日





憧れ、風、君と僕と。
吹き荒ぶ花弁。魅せられた幻。
たった一度きりの、恋にも似た想い。



「・・・・・・久しぶり、渋沢」
五年の月日は、なかったことにするには長すぎた。



黒い学生服のズボン。白い長袖のワイシャツ。グレーのセーターベスト。
面影は残っている。そう、残っている。
なのに自分は判らなかった。彼が、だと。
「シゲから聞いてさ。武蔵森に渋沢って名前のキーパーがいるって」
シゲ。それはおそらく佐藤のこと。
金色の髪が脳裏に浮かぶ。そうか、と佐藤は知り合いなのか。
「おまえ小学生の頃言ってたじゃん?中学はサッカーの強いところに入りたいって。だからひょっとしたらって思ってさ」
そう、サッカーの強いところに入りたかった。それが夢だった。夢だったはずだ。
―――――俺と、おまえの。
一筋の希望。もしかしたら、また同じチームになれるかもしれないと思ってた。
そうでなくても、いつか戦えるかもしれないと思ってた。
全国の舞台で。
「・・・・・・・・・、は・・・」
名前を呼ぶことに躊躇いを覚えた。
呼んで、いいのだろうか。呼んでもいいのだろうか。
自分と彼の間には今はどのくらいの距離が出来てしまったのだろうか。
ボール一つ分だった距離が、今は。
「なぁに、渋沢」
笑い顔は、見たことがある。
でも今は違う。
手が、震える。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
こんな笑顔は、見たことがない。
「サッカーは辞めたんだ。ごめんな、日本代表の夢、一緒に見られなくて」
「・・・・・・・・・そう、か・・・・・・」
「急な転校で挨拶も出来なくてごめん。もうマジ突然で。俺もあまりにイキナリだったからちょっと信じられなくて」
「・・・あぁ・・・・・・」
「本当に、ゴメンな」
三回の謝罪。いや、謝られるようなことは一つもない。
がサッカーを辞めたことも。
さよならの一言もなく転校してしまったことも。
すべては自然の流れで起こったことで、謝られるようなことは一つもない。
そう、何もない。



はこんな風に笑わなかった。
こんな雰囲気をしていなかった。
面影はある。だけど。



「・・・・・・本当に、、なのか・・・・・・・・・?」



夕暮れの校庭。
抱きかかえたボール。
練習したPK。
本気で語った夢。



五年という月日。



が笑った。
でもそれは俺が見たことのない、知らない人間のものだった。





2003年9月3日