013:鏡





「太一、腰が引けてる」
「は、はいっ!」
「今日の帰り、アイス食べてこ」
「あ、僕はキャラメル味がいいデス!」
「俺はブルーベリーチーズ」
「亜久津先輩からもらった割引券があるデス」
「じゃ、それ使お」



「・・・・・・・・・・おまえら、真面目に素振りやれ」
ラケットを振りながらも部活後の甘味物について話す一年生二名に南健太郎は溜息をつきながらツッコミを入れた。



山吹中学テニス部、今年の収穫の中には目立つ一年生が二人いた。
一人は越前リョーマ。
その小さな体格からは想像もつかない攻撃的なテニスを生み出し、一年生ながらにもレギュラーの一端を担うちびっ子。
もう一人は名を壇太一といい、最初はマネージャー志望で入部したものの、リョーマのテニスを前に自身も選手として再入部した。
彼ら二名に共通しているのはとても背が小さいということであって、他は似ても似つかない部分が多い。
リョーマはワガママなまでに自分本位だが、太一は逆に控えめすぎるくらいに穏やかだった。
けれどそんな彼らは確かに親友なのである。(しかも将来はダブルス候補)



「ねぇねぇ二人とも、アイス食べに行くなら俺も混ぜて?あそこのオレンジピール、美味しいって評判なんだよねー」
ラリーを適当に切り上げて千石清純がニコニコと笑って一年生Sに近づく。
「もちろんデス、千石先輩」
「奢ってください、千石先輩」
答え方一つにしてもここまで違うとは。
千石は大きな目で見上げてくるリョーマの頬を人差し指で押して、ムニムニと引っ張って遊ぶ。
ペシッと払い落とされて、けれどとても楽しそうに笑って。
「俺のアイス、半分あげるってことじゃダメ?」
「・・・・・・・・・・仕方ないっスね」
「リョーマ君は良い子良い子」
千石はフィラの帽子を撫でながら、近くにいた色黒の二年生を振り返る。
「室町君も一緒に行くー?」
「駅前の新しい店ですか?」
「そうそう。今なら亜久津のサービス券があるから格安よ?」
「なら行きます」
コートの向こうのほうで当のサービス券の所持者が眉間に青筋を立てているようで。
太一はオロオロと顔色を悪くさせるが、リョーマはそれこそさも当然のごとく乱れた帽子を被りなおした。
そしてニヤリと笑って振り返る。
「亜久津センパイ、俺と打ちません?」
ラケットを握り締めてコートへと踏み出して。
「俺が勝ったらアイスは亜久津センパイの奢りってことで」
勝気に笑ってボールをトスした。



「南部長、早く」
「東方先輩も早くデス!」



夕日に染まった帰り道で手を振ってくる一年生に肩を落としながら頷いて。
それでも苦笑しながら跡を追うのだった。



山吹中一年生二名。
可愛らしい黒猫と子犬は今日も元気なのである。





2003年8月8日