006:海鳥





「ただいまー」
ドアを開ける音とバタバタと靴を脱ぐ音が聞こえる。
「お帰りなさい、光宏」
「ただいま」
リビングへと入ってきた息子の手にあるのは白いダンボール箱(組み立て前)。
あぁ、そういえば・・・・・・。
「光宏、手紙着てたわよ。さんから」
「え、マジ?どこ?」
「テレビの上。あるでしょ?」
「あったー」
薄い緑色の封筒を手にして何やら息子は笑顔を浮かべている。
そんな様子をつい微笑ましく思ってしまって。
「着替えてらっしゃい。すぐにお夕飯よ」
「俺のは野菜抜いといて」
「好き嫌いはいい加減に失くしなさい」
何度も何度も繰り返していることをもう一度繰り返して。
本当にこの子の野菜嫌いはどうにもならないわね・・・・・・・・・。
トントントントンと軽やかに階段を上がっていく足音を聞きながら溜息を一つ。
「・・・・・・・・・ごめんね、さん。ワガママな息子で」
東京の地にいるらしい息子の恋人に謝った。



何度か転勤をしているうちに気がついた。
息子の光宏がやけに宅急便について詳しくなっている、ということに。
電話一本で来てくれるとか、営業所やコンビニに持っていくと100円安くなるとか、複数を同じ場所に送るときにはさらに安くなるとか。
クール便はタイムサービスと併用できないとか、時間便を使うと即日中に配達してくれるとか。
その他にも、気がつけば詳しすぎるくらいに宅急便マニアになっていた息子を見てつい思ってしまう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・苦労をかけてるのねぇ・・・・・・。
やっぱり転勤は出来るだけ控えてもらわなくちゃ。夫が帰ってきたら言っておこう。
光宏のことを思うとやっぱり東京に落ち着きたいわね・・・・・・。
お小遣いの5分の2が宅急便代等に使われてると思うと泣けてきちゃうわ・・・・・・・・・。
もう少しだけお小遣いをアップ・・・したら、それも宅急便に消えてしまうのかもね・・・・・・。



夕飯を食べ終わった(野菜はやっぱり残した)息子は、今はリビングでダンボールを組み立てている。
気のせいかガムテープを貼り付ける手が職人のようだわ・・・・・・。
「今回は何を送るの?」
「さくらんぼとラフランス」
「あら、じゃあ紅花茶も入れる?頂いたのがあったのよね」
ふわふわの下敷きの上に果物(傷まないように包装済み)を並べる息子に紅花茶のパックを手渡す。
まぁ・・・・・・見事なまでに名産品ばかりねぇ。これで米沢牛があったら完璧なのに。
「牛肉はの誕生日までここにいられたら送るから」
・・・・・・・・・・ごめんなさいねぇ、さん。こんな息子で。
米沢牛は高級品だからそれで許してあげてね・・・・・・。(そのときは私も特別にお小遣いをあげておくから)



宅急便に詳しくて野菜嫌いで東京に恋人のいる息子。
二週間に一度の割合で送る名産品は、気がつけば恒例行事になっていて。
同じ頃合で届く薄緑の封筒もいつの間にか恒例行事になっていた。
これはやっぱり・・・・・・・・・微笑ましい、のよね?
何だかとても可笑しなことになってしまっているような気がしなくもないのだけれど。



日生家の息子は名産品を送りつつプロサッカー選手を目指し。
家のお嬢さんは料理の腕を磨きつつお嫁さんになる予定らしい。



・・・・・・・・・・一度、さんの奥さんとお話でもしてみようかしら・・・・・・。
そんなことを思わせられる息子の恋模様。
手馴れた様子でダンボールに封をする光宏は、やっぱりどこか幸せそうだった。(ならいいか)





2003年8月21日