002:フレグランス
この恋には終わりがないかもしれない。
放課後の教室で二人きりになるのは初めてのことではなかった。
前にも何度かその状況に陥ったことはある。
たとえば、中等部を卒業したあの日とか。
窓の向こうから聞こえるたくさんの声を無視して、二人きりになった。
世界に自分たちしかいないんじゃないかって、そんな気持ちになった。
―――――今も。
ゆれる黒い髪が好きだと思う。
夕日で染まって真っ赤になっている肌も。
指先も二の腕も腰も膝も踵も。
全部全部好きだと思う。
彼女の髪の先から爪の先まで、全部好きだと思う。
そして自分の髪の先から爪の先まで、全部が彼女を好きだと思う。
心だけが彼女を好きなのではなくて、きっとこの体も彼女のことが好きなのだ。
『菊丸英二』というもののすべては、『』に恋焦がれて堪らないでいる。
いつの間にこんなことになってしまったのだろう。
全身が彼女で埋め尽くされている。
ドロドロに、一番深いところまで。
犯されている。
「・・・・・・・・・菊丸先輩?」
その声で俺を呼ばないで。
初めて彼女を視界に映したのは中学二年の春だった。もう四年も前のことだけど覚えてる。
あのときの衝撃。きっともう一生ないだろうと思うくらいのショック。
あのときに死んでしまえればよかったのに。
そうすれば、こんな。
俺は君のことが好きなんです。
君だけのことが好きなんです。
どうか判って。お願いします。
君のことが好きな俺の気持ちを判ってください。
自分を見ないその瞳が優しいから、どうしてもどうしても悲しくなってしまって。
誰も見ていないことくらい知ってるよ。
あぁでも気持ちが大きくなりすぎてしまった。
君が心にいすぎてしまった。
鼓動が早い。
このまま、死ねたら。
覚悟を決めたときに限って君は振り向くから本当に俺はどうしようもなくなってしまって。
「・・・・・・・・・・・・ぎゅーって、してもいい・・・?」
拳を握って聞いたら君は笑った。
それを見て俺はまた君に侵されるんだ。
2003年7月15日