それは、休日の朝に行われている討論番組だった。
先の大戦で、ZAFTきっての指揮官として隊を率いたクルーゼと、評議会の広告塔として日夜演説を繰り返していたエザリア。彼らの顔合わせは、政治に詳しくない若者たちでさえ、朝からテレビの前に座らせるには十分たるものだった。
本人たちもそれを意識していたのだろう。あまり難解な専門用語は用いず、簡単な言葉で、けれど深くしっかりと現在のプラントと地球、クライン派の関係について様々な意見を交わし合った。のんきに自宅でテレビを見ていたデュランダルがにっこりと微笑むくらい、視聴率は高かったと言う。
その番組の、CMに入る前の、ほんの少しの間だった。時間にして五秒にも満たない。

映し出されたのは並んで控えていた二人の青年。
クルーゼとエザリアの秘書官である彼らは、次代のプラントを担う議員候補として紹介された。





一瞬だけで十分なんです。





「あのぉ、ジュール秘書官っ!」
最高評議会議会所の前で、イザークは呼び止められた。前を歩いていたエザリアも足を止め、唇を楽しそうに綻ばせながら振り返る。イザークはそれに気づき、あからさまに眉間に皺を刻んだ。元来感情的な彼は、同僚である・クルーゼとは違い、まだ心情を隠しきれない部分がある。
「・・・・・・はい、何でしょうか」
イザークはエザリアの視線を感じつつ、にこりと営業用の笑顔を浮かべた。彼は一応愛想というものを知っており、実際にそれを実行することも出来る。いっそのようにすべていなしてしまえたらと思わないでもないが、それはエザリアから受けてきた教育に反した。良いところの坊っちゃんであるイザークは、必要最低限のマナーが随所で出てしまうのだ。
呼び止めた少女二人は、向けられた笑顔に「きゃあっ」と黄色い声を上げた。揃って頬を染めながら、次の一言を互いに譲り合っている。イザークはそれを辛抱強く待った。ディアッカやアスランがこの場にいたら、「イザークも大人になったんだな・・・」としみじみ感心したことだろう。エザリアはにやにやと笑っており、向けられる視線が居心地悪い。
「あのぉ・・・・・・」
「はい?」
ようやく話を続けることを決めたらしい。少女たちが上目使いにイザークを見上げてくる。
「ジュール秘書官とクルーゼ秘書官ってぇ、仲いいんですかぁ?」
「・・・・・・自分と、クルーゼ秘書官、ですか?」
「はい。この前の討論番組で、二人ともすごく仲良さそうだったんでぇ」
討論番組。それはイザークにも覚えがあった。クルーゼとエザリアが議論を交わし合い、彼らの秘書官である自分たちはスタジオの壁際でそれを聞いていた。二人の主張に、自分も隣に並ぶと小声で意見を交わしていたのは記憶に新しい。
黒髪黒目、クールというよりも冷酷な、美貌の才人。仲は悪くないだろうとイザークは思う。議員秘書官になってからは、足の引っ張り合いのように変な縁が手伝って距離を縮め、クルーゼとは比べ物にならないが、その他の輩よりも近しい位置にいるのは間違いない。しかしそれをそのまま伝えるのは憚られたので、イザークは笑顔のまま無難に返した。
「そうですね、親しくさせて頂いています」
刹那上がった悲鳴は、何故か歓声のようにイザークには聞こえた。
「それってそれってそれってぇ! プライベートでもですかぁ!?」
「一緒にご飯食べたり、遊びに行ったりするんですかっ!?」
「そ、そうですね、互いに忙しいので、滅多に時間が合いはしないのですが・・・・・・」
「でも行くんですねぇ! やったー! ほら、やっぱりぃ!」
「やだ、どうしよっ! これ絶対いけるって! 次のイベント、無料配布しちゃおうよ!」
「ジャンル芸能だし、いけるよぉ! あ、ジュール秘書官! どうもありがとうございましたぁ!」
「あたしたち応援してるんで頑張って下さいっ!」
「・・・・・・はぁ」
急激に上がったテンションに付いていけず、イザークが呆然と答えを返すと、少女二人はやはり叫びながら駆け去っていった。何なんだ、といまいましく舌打ちしかけたイザークの横で、堪え切れなかったエザリアが豪快に笑い出す。



後日、アプリリウス・ワンの某所で行われたイベントにて無料配布されたコピー本に端を発し、女性向けジャンルに新たに「政治」が加わったとか。





もちろんアダルツは無料配布本をゲットしました。ファンの間では受け攻めでかなりの論議がなされているとか。アホな話ですみませ・・・! い、石は投げないで下さい・・・。
2006年10月20日(2006年11月30日mixiより再録)