「うわっ」
体勢を崩した男子生徒の手から、筆箱が転がり落ちる。ガチャガチャと音を立てながら階段を下っていく様子に、級友たちが笑い声を上げた。
「はは、マヌケー」
「早く取って来いよ」
「うるせーな、分かってる」
悪態を吐きつつ階段を駆け下りていくと、丁度降りている途中だったらしい誰かが、その筆箱を拾い上げた。
「あ・・・」
「君の?」
にこりと笑いながら、女生徒が差し出してくる。名札に刻まれている学年は男子生徒の一つ上。
長い髪を左右でゆったりとした三つ編みに結っていて、少女らしい印象とは逆に、瞳はきらきらと輝いている。
そんな女生徒の後ろから、別の声が聞こえてきた。
「、早くー」
「遅れるで、次の授業」
「うん、今行く」
声の主が誰だか気づいたのか、級友たちが踊り場でぎょっとしている。
惚けたままの男子生徒の手のひらに、女生徒は筆箱をぽんっと載せた。
「気をつけてね」
笑みを一つ残して階段を駆け下りていく彼女に、ただ呆然としてしまって。
聞こえてきた予鈴のチャイムも、男子生徒の耳には届いてなかった。
Dearest
ダッシュで戻ってきた教室で、しっかりと筆箱を握り締めている男子生徒は、興奮しきった様子で口早に喋りだす。
「すっげー! すっげー可愛くなかった!? 誰、あれ!」
「外部の人だよな!? 中等部にはいなかっただろ!?」
「つーか一緒にいたの、テニス部の芥川さんと忍足さんじゃん! あの人たちと仲いい女なんていたか!?」
ぎゃあぎゃあと騒いでいると、有名男子の名前を聞き取ったのか、近くにいた女子たちがわらわらと寄ってくる。
「何々? ジロー先輩と忍足先輩がどしたの?」
「あの人たちと一緒にいる女生徒っていったら、先輩でしょ?」
「「「先輩?」」」
首を傾げる男子たちに、女子は物知り顔で何度も頷いた。
「先輩。クラスは二年C組で、ジロー先輩と忍足先輩と一緒」
「優しいし美人だけど、さっぱりしてて格好いいの! そこらへんの男なんか目じゃないって感じ?」
「テニスも上手いのよね。男テニに混ざっても平気なんだって」
「確か今はジュニアっていうの? プロの予備軍みたいなのに参戦してるんだっけ?」
へー・・・と聞いている男子たちに、女子はそれはそれは自慢げな笑顔を浮かべる。
「「それになんたって先輩の従兄妹だし!」」
「って・・・中等部でテニス部だった、あの?」
「そういや似てたかも・・・・・・」
「先輩、高等部には進まないでアメリカ留学しちゃったのよねー。あたし、ファンだったのに!」
「まぁとにかく先輩の従兄妹ってこともあって、先輩は男テニレギュラーと仲いいのよ」
「付き合ってるわけじゃないのか?」
「まさか! だってあの六人、すっごい友情って感じだもん!」
「ありえないよねー!」
笑いあう女子たちに思わず苦笑いしていると、授業開始を知らせるチャイムが鳴った。
慌てて席に着いた男子生徒は、自分の筆箱にふと視線を落とす。
「・・・・・・、先輩か・・・」
いつもは熟睡する古文の授業も、今日は何だか乗り切れる気がしていた。
高等部設定。六人は外から見てると見事な友情らしいですヨ。
2006年8月16日