キルアにとって二回目となるハンター試験は、とても退屈なものだった。
親友のゴンはいないし、クラピカやレオリオの姿もない。兄であるイルミや面倒なヒソカの不在は喜ぶべきことだろうけれど、ここまで張り合いのない輩ばかりだと試験期間が暇で暇で仕方がなくなる。前回顔を合わせた面々も少なからずいたのだが、相手の不甲斐無さからキルアの記憶には残っていない。アモリ三兄弟に話しかけられながら知人を探していると、ビーッという耳障りな音がして、開いたドアからツナギに髑髏のベルトをした男が現れた。
「よく来たな、諸君」
喋りだしたその男は、どうやら試験官らしい。ひげを撫でながら思いついたように告げられた一次試験の内容は、五人分のプレートを集めて試験官のところに持って来いというものだった。告げられたバトルロワイアルに受験生たちは一気に殺気立つが、キルアは逆に肩を竦める。彼にとって五人倒すことなど一瞬で出来る。つまんねー試験、という呟きは試験官の閉め去ったドアの音に紛れて消えた。
そして始まる無差別の戦い。
地下広場といえ、1489人の受験生が集まれば狭くも感じる。しかもその中で互いに戦いあうのだから間合いが取りづらくて堪らない。けれど常人でないキルアは適当に近くにいた人物をさくっと五人倒し、彼らのプレートを剥ぎ取ろうとした。しかし武器を交わしている他の受験生たちによって静かにそうすることも適わない。手柄を横取りしようとする輩までおり、キルアは容赦なくそういった手合いも昏倒させた。
「・・・・・・うぜー」
二枚までは剥いだけれど、残りの倒した三人はすでに踏まれたり蹴られたりでボロボロになっている。めんどくせー、と呟いて、キルアは剥いだプレート二枚をそこらへんに放り投げた。こんなに騒々しい場所ではゆっくりとしていられない。ならばいっそのこと、静かにさせてしまえば良いのだ。ここにいる受験生を全員ぶちのめせば、後は落ち着いてプレートを剥げる。
そう結論付けて、キルアは右足に力を込めて床を蹴った。暗殺者としての素質に加え、今はビスケの修行も受けている彼にとって、他の受験生など遊び相手にもならない。一方的な狩りが始まった。
王子様、天使と出会う
ふわふわのクマのぬいぐるみを抱きしめながら、は困っていた。
目の前で繰り広げられている無差別の戦闘。これがハンター試験であり、試験官が五人倒して五枚のプレートを持って来いと言ったことを考えると、一受験生であるもこのバトルロワイアルに参加しなくてはならないのだ。
自信がないわけではない。念能力を使う以前に、クマに頼めばきっと一瞬で適当に五人倒してくれるだろう。でもそれは自分の実力ではないし、一人でやらなきゃ、とは覚悟を決めるようにこくんと頷いた。そして壁際から離れて一歩踏み出そうとするのだけれど。
「はぁ!? 何でこんなとこにガキがいるんだよ!」
「馬鹿っ! あぶねーから離れてろ!」
「隠れてろって、ほら!」
・・・・・・といった感じで、壁際に戻されてしまうのである。
むぅ、とは頬を膨らませた。このままでは制限時間の二時間が過ぎてしまう。せっかく渋るイルミを説得して受験できたのに、これでは意味がない。今度こそは、と思ってが再び壁際から離れた瞬間。
黒い影が、彼女の周囲を走った。
「あれ?」
すかっと空振りした手の感覚に、キルアは走っていた足を止めた。進む端から手刀で気を失わせていたのだが、どうやら一人取り逃したらしい。面白そうな予感を覚えて振り返れば、通り過ぎた10メートルくらい前の地点に小さな影がぽつりと立っていた。
一番に目に入ったのは、場違いな真っ黒のドレスだった。ボレロのような短いカーディガンは、広がっている袖口がひらひらと揺れている。高い襟に大きなリボンのついたブラウス。何段もフリルのあしらわれているスカートはふんわりしていて、そこから伸びている足はドレスの繊細さとは真逆のごついブーツに覆われていた。いくつものベルトと紐の編み上げ、分厚い底が嵩増ししているけれど、それでもその背はキルアより低い。腕に抱かれているのは武器ではなくクマのぬいぐるみで、銀色の長い髪が喧騒にさらりと流れた。結わかれているレースのリボンも同時に揺れる。
へぇ、とキルアは感心した。それは幼女の人形のような美しさにもだったけれど、何より彼女の帯びている微弱な纏に対してだ。念を知らない他の受験生のように垂れ流しているのではなく、制御されたオーラ。凝で目を凝らせばさらによく分かる。この幼女は確実に念を使う。
「・・・・・・面白そうな奴、いるじゃん」
にやっとキルアは唇を吊り上げた。髪と同じ色の瞳がじっと自分を見つめてくる。きゅっとぬいぐるみを抱きなおして小首を傾げた幼女は愛らしく、ちょっとかわいいなんて思ったりして。僅かに赤くなった頬を隠すように指で掻いた。
「待ってろよ。すぐに他片付けてくっから!」
まるでデートの約束のようにそう告げて、キルアは残る受験生を一掃するべく駆け出した。
自分の試験でもあることを思い出したが慌ててキルアを止めるのは、それから三分後のこと。
「・・・・・・イルに似てる?」なんてことを三分考えていたようです。
2006年7月5日