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ちょうど研究も一段落して、休憩しようかと思ってリビングに来たら、常にいるはずのリドるんの姿が見えなかった。
午後はいつもここで嫁姑問題の電話相談とか二時間サスペンスの再放送とか見てるのに、どこにいったんだろう。あぁでもちゃんとビデオは稼働してるよ。流石だね、リドるん。君は完璧なテレビっ子だ。
「スティングー」
「あー?」
「リドるん知らないー?」
「あいつならアレだろ。ジュニアの父兄参観」
縁側で転がってる黄緑フォックスに聞いてみたら、そんな答えが返ってきた。
うわ、そういやそうだったよ。男指定だったからしっかりすっぱり忘れてたよ。リドるんのことだから嬉々として行ったんだろうなぁ。零がホグワーツ全壊させなきゃいいけど。今度壊したら自分で直させよう。うん。
「クロトたちは?」
「エア・トレック履いて出てったぜ。アウルも一緒」
「ミーアは?」
「ステラ引っ張って買い物行った」
「ってことは、残ってるのは私とスティング、それにレイ?」
「あぁ、たぶんな」
ちょっと実験室に篭っている間に、ペットさんたちは出かけて行ったらしい。やりたいことがあるのは良いことだよ。迷惑かけない程度に頑張って。
「じゃあ三人でお茶にしよっか。リドるんが抹茶白玉作っていってくれたみたいだし」
冷蔵庫から取り出せば、自動的に食器棚のグラスや皿がさくさく出てくる。一度閉めた冷蔵庫が開いて、お茶が勝手に出てきたよ。すごいな、リドるん。主婦の皆様が知りたがるに違いないね、この魔法。
「レーイー、お茶にしよー?」
ふわふわ羊に声をかけるため、とりあえず気配のある庭に出てみたら、確かにクリーム色はそこにいた。
そんな羊の視線の先で、黒くておかしなモノが丸くなってぐすぐす泣いてた。
「ううっ・・・・・・ボス・・・! ザンザス様・・・・・・っ!」
顔を両手に埋めて、何かしくしく泣いてる。やばい。どうしよう。どうしましょう。
うららかなぽかぽか午後、かなり面白そうなものを見つけてしまった。
おいでやすジャッポーネ!
やばい。どうしよう。えらく笑いたい。めちゃくちゃ笑いたいんだけど、ここで爆笑したら名誉毀損で訴えられるかな。どうなんですか、午後の電話相談さん。
「ボス・・・ボス・・・・・・!」
泣いてる。泣いてるよ。全身を黒で固めて、髪の毛つんつんさせてるお兄さんが、人の家の庭先でしくしくしくしく泣いてるよ。不法侵入で訴えてもいいけど、面白そうだから止めとこう。とりあえず気づいて見上げてきたレイを抱っこしてみる。お日様浴びてふわふわ羊。狐スティングも縁側から警戒してる。
「もしもし、そこのお兄さん」
三メートルの距離から話し掛けてみたところ、お兄さんはがばっと顔を上げた。うーん、顔立ちからして西洋系? 少なくとも日本じゃないね。
「人の家の庭でどうかしました? 泣くなら原因を作った張本人の前で泣かないと。他人の私たちを前に泣いたとしても、何ら効果は見られませんよ?」
泣くならば是非、法廷で。もしくは電話相談の窓口で。あぁでも生放送だと適度なところで切り上げないと、後々迷惑がかかるかな。
そんなことを伝えてみたら、お兄さんは更にぶわっと泣き出した。豪快だな、おい。男の人でここまで泣くとは、いっそ見事だと評するべきか。
「ザンザス様・・・・・・っ!」
「残念ながらそんな名前の知り合いはいないですねぇ。はぐれたというか、迷子ですか?」
まぁ迷子に違いないだろうけどね。この家には特殊な魔法がかかってて決められた人以外の出入りは一切禁止されてるし。たまにこうやって侵入してくる人もいるけれど、それも仕事の依頼人、もしくは純粋な迷子だけだし。
今回は多分後者だろう。そう思って聞いてみたら、お兄さんはぐずぐず泣きながらも現状を告げてくる。
「ザンザス様とはぐれた・・・・・・っ!」
「そうですか、そりゃ大変。ちなみにお兄さんのお名前は?」
「レヴィ・ア・タン・・・・・・」
「ここはミドルネームでお呼びしたいとこですが、レイが同病哀憐れみそうなので、ファーストネームでお呼びしましょう。レヴィさん、携帯とか持ってないんですか?」
「ザンザス様・・・・・・っ!」
「珍妙なイエスですねぇ。じゃあお泊まりのホテルとか?」
「ボス・・・・・・っ!」
「これも何かの縁ですし。ザンザス様探しとやら、お手伝いしますよ、レヴィさん」
ふわふわ羊を抱きしめながら言ってみたら、レヴィさんはがばっと顔を上げて、きらきらした目で私を見てきた。楽しそうだからって理由は言わなくて正解かなぁ。
「とりあえず、どうぞ中へ。今ならリドるん特製ごま餡入り白玉抹茶ソース小豆&バニラアイス添えをご馳走しましょう」
おいでおいでと手招きしたら、レヴィさんとやらはぐすぐす泣きながらもおとなしくついてきた。大きくて特殊っぽいけど犬みたいな人だなぁ。思わずシリウスさんを連想しちゃったよ。黒犬つながり、プラスおもしろ系?
ぷるぷるつやつや白玉は、かじれば香ばしい黒胡麻がとろりと出てくる。バニラアイスは濃厚で、抹茶ソースの苦みと甘みが絶妙なハーモニー。ちょこっと添えられたつぶ餡が和風で雅で最高だね。愛してるよ、リドるん! アイラビューハニー!
「うまい・・・・・・」
さんざん不思議そうに白玉をつついて、ようやく口に運んだレヴィさんが感動したように呟いた。でもってすぐに涙目になる。
「ボスにも食べさせてあげたい・・・・・・」
すごいな、この人。めちゃくちゃ忠実な部下だよ。っていうかボスラブすぎて見てる分には楽しいけど、ボス本人は引きそうだなぁ。
「じゃあザンザス様を見つけたら、また食べに来て下さいな。リドるんの作るご飯は最高ですよ。三ツ星シェフも真っ青ですから」
「・・・・・・必ず来る」
「それでレヴィさん、ザンザス様とはお仕事で日本へ?」
「あぁ。ハーフボンゴレリングを奪うためにここへ来た」
半分アサリ指輪。すごいネーミングだな、おい。どんな指輪だ、それは。そして言葉は選んで使いましょう。相手に警戒心を起こさせますよ?
「他にもマーモンやベルフェゴール、スクアーロとルッスーリア、ゴーラ・モスカと一緒に来た」
「計七名様、おいでませジャパン」
「目的の並盛町に行く前に、銀座で買い物したいってルッスーリアが言って」
「実にいいとこ突きますねぇ。新宿や原宿、六本木なんかもオススメですよ?」
「ゴーラ・モスカは秋葉原に行きたいって言って、マーモンは浅草の雷門が見たいって言って」
「いやはや楽しそうですねぇ。選択は個人の趣味ですか?」
「ベルは東京タワーに行くって言って、スクアーロは寿司が食べたいって言って」
「展望台は入場料が高いですよー? 寿司は是非とも竹寿司で。おいしいのでオススメです」
「ザンザス様は・・・・・・」
「ザンザス様は?」
「ネズミーランドに行きたいと、おっしゃっていた」
ここは笑うところか。笑ってもいいのか? それにしてはレヴィさんの表情が真剣すぎる。話を聞いてるところザンザス様とやらは成人男性のような気がしてたんだけど、実は青少年だったのか? まぁネズミーは永遠の夢の国だしね。着ぐるみの中はラブ・アンド・ピースさ。
「それで舞浜に行くため京葉線に乗ろうとして、あまりの人の多さにもみくちゃになり・・・・・・っ」
「気がついたら、うちの庭先にいた、と」
結論づけたらレヴィさんは頷いた。あぁまた変なところから拾ってきたなぁ。もうちょっと考えて魔法をかけるべき? とりあえず面白そうな人を迷いこませるようにしてたんだけど、その点では完璧だね。
「レヴィさんはともかく、他の人たちは携帯持ってないんですか? いつもはどうやって連絡を取り合っているんです?」
「いつもは・・・・・・マーモンが粘写して、他のメンバーを探し出す」
「粘写?」
「対象のことを考えながら鼻をかむと、相手の居場所が地図になって鼻水で表れるんだ」
「すごいですねぇ、マーモンさん」
むしろ鼻がどうなってるのかバラしてみたい。不破ーここにも人間奇想天外がいるよー。
「でも、待ってるのに今日は来てくれない・・・・・・っ!」
しくしくレヴィさんは泣き始めたけど、そりゃそうだ。だってここは日本であって日本じゃない。敷地はどっかにあるのかもしれないけど、地図にも衛星写真にも写らないように魔法かけてるし。マーモンさんの『粘写』とやらがどの程度のレベルかは知らないけれど、並大抵のことじゃこの場所は把握できないでしょう。つまりレヴィさんは見つけてもらえない。完全隔離の迷子さん。完全犯罪は是非ここで?
「じゃあ、これを食べ終えたらザンザス様たちを探しに行きましょうか。何かネズミーランドに行けば会えそうな気もしてきましたし」
つーかレヴィさんのこと放ってビッグサンダーとか乗ってそうな気もする。いやいや意外にハニーハントか? 個人的にはホーンデッドが大好きなんだけど。ロンスカヘッドドレスの
お姉さんに浪漫と乾杯!
「いいのか・・・・・・っ?」
レヴィさんがきらきらと私を見てくる。やー可愛い。いいね、この人。実に面白い。
「もちろんですよ。スティングもレイもまだネズミーに行ったことないんで、観光がてらにでも」
「ありがとう!」
レヴィさんはちゃんとお礼を言った。意外に育ちが良いのか、それともザンザス様とやらのしつけいいのか。
とにかくこうしてぽかぽか午後は、ザンザス様と愉快な仲間たちの探索に使われることになった。
・・・・・・・・・やばい。ものすごく面白そうな予感がするよ・・・!
いろいろと謝らなくてはならない気が。申し訳ありません・・・!
2006年6月23日